パワーやスピードがなくても技術や小技、チームプレーでカバーできると言われるスポーツ、野球。
しかし、チーム内の競争や試合展開、相手チームとのレベル差によっては、それらではごまかしが効かない現実があります。
何とかパワーやスピードの差を埋めることはできないのか?
今回はその答えの鍵になる「SSC運動」というものを、
と、レジェンド級にトレーナーとしてご活躍中の中垣征一郎氏の唯一の著書「野球における体力トレーニングの基礎理論」から、SSC運動について言及されている部分を引用してご紹介します。
SSC運動とは?

我々は、反動動作すなわち伸張−短縮サイクル運動(SSC運動)を用いれば大きな力やパワーを爆発的に発揮できることを経験的に知っている。
高く跳んだり物を遠くに投げたりするとき、その直前に跳ぶ方向、投げる方向とは反対方向に身体全体または身体の一部を動かす反動動作を利用する。
体力テストでの垂直跳びを想像してみて下さい。
ジャンプする直前にしゃがみ込む人がほとんどだと思います。
多くの人は、「真上」に高くジャンプするためには、その前に逆である「真下」に体を沈ませることが有効であることを経験的に知っているのです。
そのとき、筋肉や腱はどうなっているのでしょう?
この動作を筋・腱レベルで観察すると、反対方向に身体を動かしているときは伸びており(伸張している)、実際に跳んだり投げたりしているときには短くなっている(短縮している)。
このような主動作に先立って反対方向へ動く動作で大きな力やパワーを爆発的に発揮するとき、筋・腱は一体となって(筋腱複合体として)働いている。
高くジャンプするとき、ふくらはぎの筋肉が働き、足で地面を蹴る必要があります。
ふくらはぎの筋肉や腱は、しゃがみ込むときには伸び、ジャンプするときには縮みこんでいきます。
弾性エネルギー

SSC運動では、筋や腱が伸張しているときに主に筋腱複合体に弾性エネルギーを蓄積することができる(Komi,ほか:1972)。
この蓄積された弾性エネルギーは、伸張直後の筋や腱が短縮するときに利用され、大きな収縮エネルギーを生み、力やパワーを発揮する際に原動力となる。
動作において主に働かせたい筋肉を、事前に引き伸ばす。
それは、その筋肉・腱に弾性エネルギーを溜め込んでいる状態と言えるのです。
周知の通り、引き伸ばされたゴムは、張力によって弾性エネルギーを蓄積し、離すとその弾性エネルギーによって素早く引き戻される。
これと同様に、伸張時に筋腱複合体に蓄積された弾性エネルギーを利用して、直後の短縮時における力やパワーを大きく増加させるのである(図子、ほか:1997)。
そのメカニズムは、「ゴム」を想像すると分かりやすいでしょう。
手で引き伸ばしたゴムを離すと、一気に縮みこみます。
ジャンプをする前のしゃがみ込みにより引き伸ばされた筋肉・腱は、「ゴム」と同じように縮みこむ働きが増大します。
その分、強い力で地面を押し、高くジャンプをすることができるのです。
つまり、強い力やパワーを出したいときには、その直前にあえて逆の動きをする。
そうすることで、筋肉・腱にパワーを溜め込むことができるのです。
そのメカニズムを利用したものは「SSC運動」と呼ばれています。
上肢のSSC運動(投、打など)と下肢のSSC運動(走、跳など)では、伸張の大きさやスピード、伸張から短縮への切り替えの仕方など、SSC運動の行い方(ふるまい)が大きく異なる。
それは、下肢にはアキレス腱のような大きくて強い弾性体があるのに対して、上肢には小さい筋と腱しかないからである。
したがって、投球と打撃、疾走と跳躍などの合理的・効率的な動作を考える際には、このことをよく理解しておくことが重要であろう。
手・腕を始めとした上半身と、脚を始めとした下半身とでは、筋肉・腱の構造上の違いがあります。
比較的、上半身より下半身の方が、筋肉・腱の長さや太さがあります。
その分、SSC運動として蓄えることができる弾性エネルギーは、下半身の方が高いのです。
よくバッティングやピッチングで「下半身を使え!」と言われる所以の一つと言えます。
また、個人の持つ身体的な特性によっても違いがあることを考慮すべきであろう。
ただし年齢や性別によっても、筋や腱の構造は異なります。
成長期の子どもの場合は、骨に成長線があり大人の骨に比べ構造的に脆弱です。
そうした構造面や、練習や試合での疲労などを考慮した上で、トレーニングの負荷を調整しなければ、スポーツ傷害のリスクが高まります。
また、女性の場合は生理があります。
月経に応じた栄養摂取や負荷の調整をしなければ、疲労骨折などのスポーツ傷害のリスクが高まります。
予備緊張

前述したようにSSC運動は、主となる動作の直前にあえて逆の動きを行います。
逆の動きをすることで、主な動作を引き起こす筋や腱は引き伸ばされます。
このとき、筋肉や腱はただ引き伸ばされるだけではないことが分かっています。
SSC運動においては、伸張動作(予備動作)→短縮動作(主動作)の順に動作を行う。
この流れを見ると、主動作の直前に行われる予備動作では、筋や腱は予備緊張を引き起こし主動作の準備体制を整えていることがわかる。
逆の動きで引き伸ばされる前に、筋肉や腱は事前に緊張しているのです。
事前に緊張することで、より強度の高いゴムのような状態になります。
予備緊張により、筋肉や腱の張力を高めているのです。
具体的には以下のような予備動作が挙げられています。
予備動作の行い方は、運動の種類やその課題などによって様々な形で行われる。
跳躍を例にして、予備動作をながめることとする。
スクワット・ジャンプ:膝を曲げた姿勢から上に跳ぶ。膝を曲げた準備姿勢において、筋や腱は引き伸ばされている。
カウンタームーブメント・ジャンプ:立位姿勢からしゃがみ込んだ後に上に跳ぶ(一般的に垂直跳びと呼んでいる)。しゃがみ込んでいるときに、筋や腱は大きく引き伸ばされている。
ドロップ・ジャンプ:ある高さから飛び降り、着地姿勢からしゃがみ込んだ後に素早く上に跳ぶ。しゃがみ込んでいるときに、筋や腱は大きく引き伸ばされている。
よくInstagramなどで紹介されているトレーニングはこうしたSSC運動を活用している訳です。
筋や腱は、大きく引き伸ばされているとき(伸張時)に、前もって適度に緊張しているとより大きな弾性エネルギーを蓄積することができる(Cavagna、ほか:1965/1968、Komi、ほか:1972)。
例えば、連続ジャンプの際には、空中での落下姿勢から着地にかけて、下肢主要三関節(股関節、膝関節、足関節)の伸筋群が適度に予備緊張をすることにより、跳躍時に発揮できる力やパワーは大きくなる。
大きな力やパワーを効率よく発揮するためには、筋や腱が次に起こる運動を先取りし、適切に予備緊張をしておくことが大切である。
ある高さから飛び降りて(落下して)、できるだけ短い設置時間で高く跳ぶような爆発的なドロップ・ジャンプにおいては、下肢三関節の伸筋群の筋電図を観察すると、接地前にすでに大きく放電をしている(筋が緊張している)ことがわかる(Melvill-jones、ほか:1971a・b)。
よくスプリント系の動画で、「足首を固める」と言われていますが、背景としてこうした理屈があると思われます。
また、野球の守備で「ボールがバットに当たる直前にジャンプしろ」と言われるのも同様です。
筋・腱により強い力やパワーを出させるため、予備動作として緊張させつつ引き伸ばし、張力を高めているのです。
このような予備動作(伸張動作)における伸筋群の予備緊張は、続く主動作(短縮動作)において大きな力やパワーを効果的に発揮するために、運動中枢で作られた運動プログラムによる動作の先取りを示すものである。
大きな力やパワーの発揮が要求される運動では、多くの場合、筋腱複合体を固いゴムのように使ったり少し柔らかめに使ったりしながら、予備緊張の度合いを調節し、短縮時に発揮する力やパワーの大きさを調節しているのである。
そして、その筋肉や腱の予備緊張の度合いは頭(脳)で調整し、トレーニングや競技中に求められる力やパワーの加減を調節しているのです。
切り換えし動作でSSC運動を実感する

では、SSC運動をトレーニングで活用するにはどうすればよいのでしょうか?
SSC運動を実感するには、ウェイトトレーニング手段のベンチプレスやスクワットを、肩・肘関節や股関節の屈曲から伸展への切り換えしをできるだけすばやく行うように強調してみるとよい。
バーベルを下ろしてくる際に、屈曲から伸展に切り換えす局面、すなわち筋や腱が伸張から短縮にスイッチする局面に向かって、降ろす速度を調節しながら徐々に筋の緊張を高め、できるだけすばやく切り替えようとすれば、バネが利いたようにバーベルを持ち上げることができる。
ウェイトトレーニングとして行うベンチプレスやスクワットなどは、一定のスピードで重量物を上げ下げするのが一般的だと思います。
一方、アスリートがウェイトトレーニングで、上げ下げの局面を素早く行っているのをInstagramなどで目にすることもあるかと思います。
それは、ここまでで解説しているSSC運動を利用したウェイトトレーニングなのです。
「降ろす」動作と「上げる」動作を分けるのではなく、「降ろす」局面で伸ばされる筋肉や腱の緊張を高め、バネを効かせたように伸ばされた筋・腱を縮め、素早く「上げる」局面に移行させているのです。
このように切り換えしを強調して行えるようになると、降ろしてから上げるというような降ろす動作と挙上する動作を別々の動作として行う場合よりも、予備緊張が働きSSC運動の効果をより実感できる。
伸張から短縮へと移行する時間(カップリング・タイム)が短いほど、伸張時に筋や腱に蓄えられた弾性エネルギーは短縮時に効率よく利用されるのである(Desmedt、ほか:1977、Dietz、ほか:1978)。
「下げ」から「上げ」の局面をできるだけ素早く行う。
そうすれば、より効果的なSSC運動になります。
SSC運動を利用したウェイトトレーニングは、筋肉や腱が持つエネルギーを最大限発揮させるトレーニングと言えます。
トレーニングの意味合いとして、「筋肥大」というより競技に必要な動作上の「筋力」や「(無酸素性)パワー」を高める意味合いが強いと言えるのかもしれません。
切り換えし動作の中でどうのように引き出し、その強弱や素早さを調節するかは、効率的な力の発揮や効果的な動作を習得する上で重要な要素と言える。
野球は、打撃では投手の投げるタイミングや球速、変化球、守備では飛んでくるボールのスピード、捕球した位置と送球先との距離など、その時の状況に応じて動作や力の加減を調節しなければなりません。
トレーニングでSSC運動を利用し、動作の強弱やスピードの幅を広げつつ、その幅をプレイの中で調整していく「調整力」もとても重要ですね。
野球とSSC

次に野球とSSC運動の関係についてです。
野球においては、投、捕、打、走などのほとんど全ての運動が、その運動に関連する筋や腱のSSC運動で行われている。
当然、野球の動きは筋肉の収縮によって作り出されていますが、その動きにもSSCの運動が関与しています。
例えば右打者の打撃動作では、最初に体重を右脚に寄せる動作において、右脚の下肢三関節の伸筋群を中心に伸張し、次いで投手方向への体重移動に伴い伸張された筋群は短縮する。
さらに左脚で接地する際には、左脚の下肢三関節の伸筋群は伸張され、その後のスイング動作に併せて短縮している。
また、下肢の運動に併せてスイング動作を行っている上半身においても、上肢や体幹部の筋や腱のSSC運動で行われている。
Instagramなどで、バッティングのトップを作る姿勢として、スクワットのように股関節や膝を曲げている動画を目にすることがあると思います。
それは、大きく強いお尻やもも裏の筋肉や腱を伸ばし、弾性エネルギーを溜め込んでいると言えます。
ヒッティングの局面に移るにつれ、それらの筋は縮み込み、スイングや打球のスピードを高めることができるのです。
そういう意味では、バッティング自体がSSC運動を利用したトレーニングにもなりますし、トレーニングでSSC運動を利用し、よりパワーを発揮できるようにしておけば、バッティング自体がよりパワフルになると言えます。
爆発的な力発揮に有効な運動連鎖

先ほどの引用の中で「下肢三関節」という重要なワードが出てきました。
「下肢」とは「脚」や「足」とほぼ同義です。
その三関節ですので、「股関節」「膝」「足首」の関節のことになります。
野球は一見、手や腕でボールやバットを操るスポーツにみえます。
しかし、重力が働く地球上でプレイする限り、地面と接する「下肢」をうまく使えるかが、巧みにボールやバットを操ったり、力強い、スピードのあるスイングやスローイングができるかの鍵になります。
爆発的に力やパワーを発揮する運動の多くは、下肢から生み出された力やパワーを原動力として行われている。
野球におけるほとんど全ての運動も、脚と地面とのやり取りを通して生み出されたパワーを基にして行われている。
野球の技術指導の中でも、「もっと下半身を使え」「下半身で投げろ(打て)」「もっと下半身の粘りを出せ」などの言葉がしばしば聞かれる。
爆発的に力を発揮する際に下肢が生み出す力やパワーが重要であることを、実践の中で誰もが知っているのである。
私も過去、引用のように指導者に「下半身」や「足腰」の重要性を説かれたことがあります。
当時は正直、その意味がよく分かりませんでした。
「下半身で生んだ力やパワーを、ボールやバットにうまく伝えられるか?」ということだったのです。
そこに必要になるのは、「下肢」と「体幹」と「上肢(腕や手)」とのつながり。
著書では「運動連鎖」というワードでまとめられています。
爆発的な力やパワーを発揮する際には、多くの場合、この3関節が一つのユニットとして機能的に働いている。
このことは、爆発的な力やパワーの発揮を考える際には、下肢三関節の基礎的な構造を知っておくことが重要であることを示している。
最大限、下半身で生み出されたパワーを、運動連鎖として巧みにボールやバットに伝えるためには、まず下肢三関節の構造を知っておく必要がありそうです。
下肢三関節の構造
下肢三関節の構造的特徴として以下のように述べられています。
・非常に安定した臼型構造で、力やパワーを発揮できる方向が多彩である。
(球関節または臼状関節)
・筋腹が大きく力やパワーの発揮に優れた伸筋群を持つ
・身体重心に近く、身体重心との間に他に大きな関節がないため、股関節運動によって直接的に加速度を生み出すことができる
・大きなパワーの発揮方向は伸展屈曲の1方向のみである
(蝶番関節)
・股関節に比べると、身体重心から遠い
・股関節よりは小さいが、筋腹が大きく力やパワーの発揮に優れた伸筋群を持つ
・股関節の伸筋群に比べると、スピードの発揮にも優れた腱の長い筋群を持つ
・足関節はいくつかの関節の集合体として成り立ち、いくつかの回転軸を持つため、底屈方向への力やパワーの発揮には一定の自由度がある。ただし、背屈方向への力やパワーの発揮には自由度が小さい。
・底屈筋である下腿三頭筋は、人体で最長の腱であるアキレス腱を持ち、スピードの発揮に優れる。
これらの特徴をふまえて、3つの関節が一つのユニットとして、爆発的な力やパワー発揮においてどのように機能するかを理解しておくことが大切である。
簡単にまとめると、体に近い方(股関節)が遠い方(足首)に比べパワーの発揮に優れ、遠い方(足首)の方が近い方(股関節)に比べスピードの発揮に優れるというイメージです。
その特徴を踏まえ、どうトレーニングや競技に活かせばよいのでしょうか?
下肢における中心から末梢への運動連鎖と加速運動

例えばジャンプやスプリントは、典型的な下肢三関節による出力を原動力とした爆発的な運動である。
このような運動の際には、股関節から膝関節のように力の発揮に優れた伸筋群を持つ関節の伸展動作から、膝関節から足関節のようにスピードの発揮に優れた伸筋群を持つ関節の伸展動作へと続く運動連鎖が、大きな加速運動を引き起こしている。
ジャンプやスプリントなど、大きな加速を生むための順番として、まずは股関節や膝からパワーを生み出し、そのパワーを膝や足首に素早く伝えていく流れになります。
例えば、垂直方向の跳躍運動においては、最初に重心近くの股関節が大きな伸展力を発揮して重心は上方へと移動し始め、次いで膝関節、足関節の運動へと続き、力発揮に優れた筋群からスピード発揮に優れた筋群へと続く関節運動の連鎖が、大きな加速度を生み出し効率のよい跳躍運動を引き出す。
爆発的に力やパワーを発揮する際には、このような中心から末梢へと続く運動連鎖、すなわち中心から末梢へのSSC運動の連鎖が不可欠である。
体の中心に近い場所でSSC運動によりパワーを生み出し、運動連鎖としてそれを体から離れた手や足へ効率的に伝達する。
それが爆発的なパワーを効率的に使ったパフォーマンスを生み出す鍵となります。
人体に限らず多くの歩行動物は、二足歩行、四足歩行に関わらず、身体重心近くには筋腹が大きく力の発揮に優れた筋群が集まり、そこから末梢へ向かうほど腱の長いスピードの発揮に優れた筋群へと移行する。
末梢のスピードの発揮に優れた筋群だけで身体重心と身体各部位を大きく加速することはできない。
中心から末梢へと関節運動を連鎖させることによって加速を促し、合目的的に効果的に運動が行えるように人体の構造はできていると言えよう。
動物は、体の中心にパワーの発揮に優れた大きな筋肉があり、中心から離れた手足にはスピードの発揮に優れた腱の長い筋肉がついています。
手足で体を操作するのではなく、体から操作していくこと。
それが効率的な動きであり、始めからそう行えるように体はできているのです。
爆発的な力・パワーの発揮と障害予防の両立

SSC運動は爆発的なパワーを発揮する一方、怪我のリスクもあります。
野球における投・打・走のように、爆発的に力やパワーを発揮するような運動においては、身体にかかる負荷が強く傷害に陥る可能性も高い。
身体が発揮する力やパワーが大きいほど、身体の局所にかかる負担も大きくなる。
SSC運動の主役である筋肉や腱は、骨に付着しています。
その付着部には相当は力が作用しているのは想像に固くありません。
例えば、疲労骨折は機序として、繰り返しの外力による骨の小さな損傷(マイクロダメージ)が挙げられています。
通常は自然に修復されますが、修復能力が低下している場合や修復能力を超える損傷が加わり続けた場合、疲労骨折が生じると言われています。
そうしたことも考慮した上で、トレーニングは計画的に取り組む必要があります。
爆発的に力やパワーを発揮する能力を向上させながら傷害のリスクも減少させる、というのは相反する課題にように思えるが、高いパフォーマンスを長期にわたって発揮し続けるために克服しなければならない重要な課題である。
では、どのようなことに気をつければよいのでしょうか?
傷害予防に必要な要素
SSC運動を用いたトレーニングで爆発的なパワーを発揮する能力を高めつつ、怪我も予防する上で必要なことは以下のように述べられています。
障害予防に必要な主な要素は、
①生理的条件を十分に整えること
②トレーニングを適切に管理すること
③動きの欠陥を改善すること
の3つに大別して考えることができる。
それぞれ3つについては、以下のように詳しく述べられています。
・全面的、専門的な筋力を十分に発達させておくこと
・試合やトレーニングを行う上で必要な無酸素性持久力や有酸素性持久力を全身的かつ局所的に発達させておくこと
・野球の様々な技術に必要な身体各部位の関節の柔軟性を高めておくこと
・様々な固有受容器トレーニングなどを通して関節機能を十分に整えておくこと
・ウォームアップやクールダウンによって、1回ごとのトレーニングに対する生理的準備を丁寧かつ適切に行うこと
「生理的」とは、「からだの機能や組織の面に関するさま」とされています。
簡単に言うと、筋力や持久力、柔軟性、調整力、深部体温などがそれに当たります。
SSC運動を用いたトレーニングを行うには、筋力や持久力、柔軟性、調整力、深部体温などを一定の水準まで高めておく必要があるということです。
筋力に関して言うと、スクワットなどで全身的な筋力を鍛えることと、野球特有の肩周囲のインナーマッスルなどの専門的な筋力も十分に鍛えておく必要があります。
持久力に関しても、無酸素性と有酸素性とがありますが、それぞれ全身的だけでなく、肩周囲のインナーマッスルについても求められるということです。
その他、柔軟性や、野球特有の動作を行う上でうまく体をまとめることができるかといった調整力も一定の水準まで高めておく必要があります。
そして、それらすべてが一定条件そろっていたとしても、ウォーミングアップなど準備運動で深部体温をしっかりと高めておくことも怪我の予防には欠かせません。
1回のトレーニングまたは一定期間のトレーニングにおいて、負荷の強度・量、頻度などが過度にならないようにすること
通常のウェイトトレーニングと比べ、SSC運動は爆発的なパワーを発揮する分、筋・腱が付着する局所には高い負荷がかかります。
その分、トレーニングにおける負荷の強度や量、頻度には配慮が必要です。
トレーニング後には、一定の栄養や睡眠といった休息も必要になります。
合理的でない動き(動作)によって、局所(身体の各部位)に対して過剰なストレスを与えないこと
一般的にウェイトトレーニングを行う上で言われるような適切なフォームで行う必要があります。
例えば、スクワットであれば膝が足に対して前に出すぎないことや、体幹が股関節から適切に傾いていること、体が丸くなっていないことや反りすぎていないこと、などです。
ジャンプであれば、膝が足と股関節を結んだ線上に位置にあり、内側や外側に位置していないか、などが挙げられます。
傷害予防を考える際には、生理的な条件を整えることに偏ることが多い。
しかし、どんなに生理的な条件が整ったとしても、トレーニングの強度や量が生理的な限界を超えてしまえば傷害を防ぐことはできない。
また、生理的な条件を十分に整え、適切な強度や量でトレーニングを行ったとしても、動き(動作)に欠点があり、局所に過剰なストレスをかけると傷害が起きる。
SSC運動を用いたものに限らず、トレーニングを行う際は「生理的条件はどうか」「トレーニングの強度や量、頻度は適切か」「動作の欠点がないか」の3つの目をもって取り組むことが怪我予防のポイントになります。
さらに言えば、それができれば怪我予防だけでなく、パフォーマンスアップにつながるとも言えます。
その上で、トレーニングの強度や量、頻度などを調整し、試合に向けて「ピーキング」していくということができれば鬼に金棒です。
野球の傷害として典型的なものは、ピッチング・スローイングによる過剰なストレスからくる肩や肘の傷害である。
筋力不足や機能不全、投球過多からこのような傷害が起こる場合も少なくないが、投球動作の欠点から傷害が起こることもまた少なくない。
また、野球といったオーバーヘッドスポーツは、投げる動作の繰り返しの重積によって肩や肘の怪我につながります。
また、投球動作自体に問題があって、肩や肘に負担のかかる動作になっていないか、という視点も怪我予防に大切です。
したがって、傷害を防ぐためには、生理的な条件がどの程度まで整っているかを評価した上で、トレーニングの強度・量、頻度などを設定しなければならない。
また、動作の欠点を評価し、動作の欠点を改善していくとともに、現在の動きで耐えうる強度・量、頻度などを設定することが大切である。
不幸にして傷害が起こった場合には、何よりもまず傷害の原因がどこにあるのかを明確にして再発の防止に努めることである。
バッティングやピッチング、スローイング自体がSSC運動を利用した爆発的な力やパワーを発揮する動作であることを考えると当然、その練習や試合も含めて、強度や量、頻度、動作の質も考慮する必要があります。
怪我をしてしまった場合は、怪我した部位の治癒を図りつつ、前述の3つの目で怪我をした要因はどこにあるのか見極めつつ、リハビリをしていく必要があります。
また、野球の肩・肘の怪我は大人と子どもでは機序が異なりますので、その点も注意が必要です。
おわりに
いかがでしたか?
スポーツ競技は、おのずと力やパワー、スピードがある方が優位になります。
その力やパワー、スピードを生み出すSSC運動を活用しない手はありません。
SSC運動の理屈を理解した上で、普段のトレーニングから活用し、パフォーマンスアップしていきましょう。

練習時間が限られている野球人にとって、SSCの活用は必須かも!
より詳細にSSC運動など効果的なトレーニング方法について知りたい方はこちらをどうぞ。
では。
・プロ野球日本ハムのトレーナー(2004年〜2010年、2013年〜2017年)
・ダルビッシュ有選手の専属トレーナー(2012年)
・MLBのパドレスのトレーナー(2017年〜2018年)
・現オリックス・バファローズ巡回ヘッドコーチ(2019年〜)