肘の痛み、野球肘。子どもと大人は原因・治療・復帰までが違う!〜スポーツ医学検定検定より〜

野球に関わっていると遭遇することは少なくない肘の痛み、野球肘。

ひと括りに野球肘といっても、その原因は「子ども」と「大人」で異なります。

当然、異なる症状や治療・復帰の流れ。

今回は「子ども」の野球肘について、スポーツ医学検定公式テキストよりご紹介します。

適切に「子どもの野球肘」を理解・対処し、楽しく野球をプレイできるようにしましょう。

子どもの肘の痛み、野球肘とは

肘の痛み、野球肘。子どもと大人は原因・治療・復帰までが違う!〜スポーツ医学検定検定より〜

野球肘とは野球で肘が痛くなった状態のことであり病名ではない。

お腹が痛いことを腹痛と呼ぶのと同じであり、何を傷めているのかを理解する必要がある。

また、成長期と成人では肘関節の構造が異なるため傷害の様相も異なる。

骨端線が開存している成長期には、最脆弱部である骨端の成長軟骨に障害が起こる。

内側部に生じる内側上顆障害(リトルリーグエルボー)が最も頻度が高い。

外側部に生じる上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD:osteochondritis dissecans)は、経過によっては日常生活に悪影響を及ぼすことがある。

 

子どもの肘の痛み、野球肘の受傷機転

成長期の野球肘の病態の多くは内側上顆障害とOCDである。

投球動作では、内側は牽引・圧迫の力、外側は圧迫の力がかかり、投球による過度なストレスにより発症する。

しかし、OCDについては外的要因のみでなく、血行障害説・遺伝性素因説・内分泌異常説など内的要因も報告されている。

投球過多により内側上顆に重度の障害を来す例でも小頭に異常がないことが多い。

また肘のストレスが少ない少年サッカー選手における検診でもOCDの発生が報告されていることから、OCDに発生においては内的要因が関与すると考えられる。

現時点ではOCDに関して内的要素と外的要素のどちらもあることを理解しておく必要がある。

 

子どもの肘の痛み、野球肘の予防

受動喫煙率は上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD)のリスクファクターの1つ

1次予防として、投球における肘の外反ストレスを減らすため、肩甲胸郭や股関節などの柔軟性を含めた、日々のストレッチが障害予防にとって重要である。

2次予防として、野球肘検診に参加し異常がないかを定期的にチェックすることが重要である。

1981年徳島県で始まった野球肘検診は全国に広まりつつある。

アンケート調査や一次検診の超音波検査で異常が認められた選手は、病院の二次検診を勧められる。

上腕骨小頭OCDを罹患した成長期の選手で、有意に受動喫煙率が高いという報告があり、リスクファクターの1つとして注意を要する。

 

子どもの肘の痛み、野球肘の症状

内側上顆障害は投球の加速期に痛みを認め、多くは徐々に痛みが出現する。

「この1球で痛くなった」という明らかな受傷機転がある場合は剥離軟骨(骨でいう骨折)の可能性がある。

痛みが強く、可動域制限が出ることもあり、屈曲・伸展の可動域を必ず確認しておく。

OCDの疼痛部位は肘外側である。

初期には痛みがないのが特徴である。

痛みが出た時には進行しており、不可逆的な可動域制限を来すケースもある。

 

子どもの肘の痛み、野球肘の検査・診断

診断は主に理学所見と画像診断で行う。

理学所見では内側上顆下端や上腕骨小頭の圧痛、外反ストレスで障害部位の痛みを認める。

画像診断は主にX線検査と超音波検査で行う。

内側上顆の剥離損傷かどうかを見分けるにはMRI検査も有用である。

OCDの診断は初期にはX線検査では捉えられない症例もあり、超音波検査やMRI検査が有用である。

どちらの障害もX線検査の撮影は、伸展位正面像よりも45°屈曲位正面像の方が病変部を正確に捉えることができる。

上腕骨小頭OCDは一般的に外側に発生し、やがて病変が中央部に広がる。

修復過程は、外側上顆の骨化進行とともに小頭外側から修復していく。

 

野球肘(内側上顆障害)の治療・復帰の流れ

子どもの野球肘(内側上顆障害)は投球中止中も痛みが出なければランニング、バッティング、ノックの捕球は許可

内側上顆障害では基本的に保存療法が行われ、小骨片が残存しても痛みがなく、投球可能な場合が多い。

原則投球中止とし、痛みの程度などに応じて投球中止期間が設定される。

1〜2週で済むこともあれば3ヶ月を要することもある。

日常生活で内側上顆下端に強いストレスがかかることはなく通常固定の必要はないが、可動域制限を伴う強い痛みがある場合、固定を検討する。

投球中止中も痛みが出なければランニング、バッティング、ノックの捕球は許可する。

また、不十分な体幹筋力、姿勢不良、下肢や肩甲胸郭の柔軟性低下、肩甲骨の支持性低下などの身体機能に問題があることが多い。

そのため、体幹・骨盤の立位アライメントの修正や肩甲胸郭機能の改善などのリハビリテーションを行い、投球時の内側部への負担を減らすことが大切である。

痛みの改善により投球を段階的に再開するが、痛みがすぐ再発するようなケースでは投球動作の指導も考慮する。

段階距離投球数
ボールを使わない1シャドウピッチ
同上2同上
山なりのキャッチボール4塁間の半分20球
同上5同上20球
同上6お休み
同上7塁間の半分30球
同上8同上30球
同上9お休み
軽いキャッチボール10塁間の半分20球
以下同上11同上20球
12お休み
13塁間の半分30球
14同上30球
15お休み
16塁間20球
17同上20球
18お休み
19塁間30球
20同上30球
21お休み
キャッチボール(7割の強さ)22塁間の半分30球
以下同上23同上30球
24お休み
25塁間の半分50球
26同上50球
27お休み
28塁間20球
29同上20球
30お休み
全力投球31塁間20球
以下同上32同上20球
33お休み
34塁間30球
35同上30球
36お休み
37塁間の1.5倍20球
38同上20球
39お休み
40塁間の1.5倍30球
41同上30球
42明日から復帰
投球再開プログラムの一例

 

野球肘(上腕骨小頭離断性骨軟骨炎:OCD)の治療・復帰の流れ

一方、OCDでは初期でも痛みや可動域制限を認めず、痛みの出現時にはすでに進行していることが多い。

その後、遊離期へ移行すると遊離体が形成され、また関節症が進行すると著しい可動域制限を来し、野球のみならず日常生活にも支障を生じる。

関節の破壊と変形が進むと手術でも機能回復は得られない。

OCDは静かに発症し進行性に悪化する予後不良の障害であり、早期発見と早期の治療開始が大切である。

治療の中心は保存療法であり、投球・バッティングの中止などが徹底して行われる。

投球中止期間は画像所見で判断され、3ヶ月のときもあれば長い場合2年間中止になるケースもある。

保存療法で改善がない場合、手術が考慮され、関節鏡で行うクリーニング(鏡視下郭清術)や、自分の膝あるいは肋骨部から採取した骨軟骨を上腕骨小頭の病変部に移植する手術が行われる。

OCDの治療は、医療機関によって保存療法の期間や手術の内容にばらつきがある。

手術は病変の大きさや状態、選手の背景も考慮して術式が選択される。

 

おわりに

最後にまとめます。

子どもの肘の痛み、野球肘とは

・野球で肘が痛くなった状態→病名ではない

→お腹が痛いことを腹痛と呼ぶのと同じ

→何を傷めているのかを理解する必要

・成長期と成人↔肘関節の構造が異なる

→傷害の様相も異なる

・骨端線が開存している成長期

→最脆弱部である骨端の成長軟骨に障害

・内側部に生じる内側上顆障害(リトルリーグエルボー)が最も頻度が高い

・外側部に生じる上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD:osteochondritis dissecans)

→経過によっては日常生活に悪影響を及ぼすことがある

子どもの肘の痛み、野球肘の受傷機転

・成長期の野球肘の病態の多くは内側上顆障害とOCD

・投球動作では、内側は牽引・圧迫の力、外側は圧迫の力がかかる

→投球による過度なストレスにより発症

・OCDは外的要因+内的要因(血行障害・遺伝性・内分泌異常など)も報告

→投球過多により内側上顆に重度障害を来す例でも小頭の異常(−)が多い

→少年サッカー選手における検診でもOCDの発生が報告

→OCDは内的要因が関与すると考えられる

→現時点ではOCDに関して内的要素と外的要素のどちらもあると理解

子どもの肘の痛み、野球肘の予防

・1次予防:肩甲胸郭や股関節のストレッチ

→投球における肘の外反ストレスを減らす

・2次予防:野球肘検診に参加

→異常の有無を定期的にチェック

→アンケート調査や一次検診の超音波検査で異常

→病院の二次検診を勧められる

・上腕骨小頭OCDを罹患した成長期の選手

→有意に受動喫煙率が高いという報告あり

→リスクファクターの1つとして注意

子どもの肘の痛み、野球肘の症状

・内側上顆障害は投球の加速期に痛み

→多くは徐々に痛みが出現

・「この1球で痛くなった」という明らかな受傷機転がある場合

→剥離軟骨(骨でいう骨折)の可能性

・痛みが強く、可動域制限が出る

→屈曲・伸展の可動域を必ず確認

・OCDの疼痛部位は肘外側

→初期には痛みがないのが特徴

→痛みが出た時には進行済み

→不可逆的な可動域制限を来すケースも

子どもの肘の痛み、野球肘の検査・診断

・診断は主に理学所見と画像診断

・理学所見:内側上顆下端や上腕骨小頭の圧痛、外反ストレスでの障害部位の痛み

・画像診断:主にX線検査と超音波検査

→内側上顆の剥離損傷かの判別にはMRI検査も有用

→初期のOCDはX線検査では捉えられない症例あり→超音波検査やMRI検査が有用

・どちらの障害もX線検査の撮影は、45°屈曲位正面像が正確

・上腕骨小頭OCDは一般的に外側に発生し、やがて病変が中央部に広がる

→修復過程は、外側上顆の骨化進行とともに小頭外側から修復

内側上顆障害の治療・復帰の流れ

・基本的に保存療法

→小骨片が残存しても痛み(−)、投球可能な場合が多い

・原則投球中止

→痛みの程度などに応じて投球中止期間が設定

・1〜2週で済むこともあれば3ヶ月を要することも

・日常生活で内側上顆下端に強いストレスがかかることはない

→通常固定の必要はない

※可動域制限を伴う強い痛みがある場合、固定を検討

・投球中止中も痛みが出なければランニング、バッティング、ノックの捕球は許可

・不十分な体幹筋力、姿勢不良、下肢や肩甲胸郭の柔軟性低下、肩甲骨の支持性低下などの身体機能に問題があることが多い

→体幹・骨盤の立位アライメントの修正や肩甲胸郭機能の改善などのリハビリ

→投球時の内側部への負担を減らすことが大切

・痛みの改善により投球を段階的に再開

→痛みがすぐ再発するようなケースでは投球動作の指導も考慮

上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD)の治療・復帰の流れ

・初期OCDは痛みや可動域制限(−)

→痛みの出現時にはすでに進行が多い。

・遊離期へ移行すると遊離体が形成

→関節症の進行→著しい可動域制限&野球のみならず日常生活にも支障(+)

・関節の破壊と変形が進むと手術でも機能回復は得られない

・OCDは静かに発症し進行性に悪化する予後不良の障害

→早期発見と早期の治療開始が大切

・治療の中心は保存療法

→徹底した投球・バッティングの中止など

投球中止期間は画像所見で判断され、3ヶ月のときもあれば長い場合2年間中止になるケースもある。

保存療法で改善がない場合、手術が考慮され、関節鏡で行うクリーニング(鏡視下郭清術)や、自分の膝あるいは肋骨部から採取した骨軟骨を上腕骨小頭の病変部に移植する手術が行われる。

OCDの治療は、医療機関によって保存療法の期間や手術の内容にばらつきがある。

手術は病変の大きさや状態、選手の背景も考慮して術式が選択される。

以上、

スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]

の「野球肘(成長期)」からの引用でした。

なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。

読者の親子で健康で楽しいスポーツの一助になれば幸いです。

では。