体力的に劣るチームが優るチームに勝利する。
そんなことも起こり得るのが野球というスポーツ。
しかし、体力が優れている方が試合を優位に進められることは自明です。
また、体力的に優れている方が将来のプレイの幅も広がるでしょう。
その体力の違いを生む大きな要因として、「基本原則をおさえながらトレーニングすることができているか?」が挙げられます。
そこで今回は、
と、レジェンド級にトレーナーとしてご活躍中の中垣征一郎氏の唯一の著書「野球における体力トレーニングの基礎理論」から、体力トレーニングの基本原則について言及されている部分をご紹介します。
体力とは
体力は、
・筋力
・無酸素性パワー(単にパワーと呼ぶ)
・無酸素性持久力
・有酸素性持久力
・調整力
・柔軟性
の6つの要素に分けられる。
それらは運動との関連で次のように分けられている。
筋力、無酸素パワー(パワー) | 運動を起こす体力の要素 |
無酸素性持久力、有酸素性持久力 | 運動を続ける体力の要素 |
調整力、柔軟性 | 運動をまとめる体力の要素 |
上記のうち、筋力、無酸素パワーは「エネルギー系の体力」、調整力は「神経系の体力」と呼ばれている。
体力の要素 | トレーニングの一例 |
筋力 | ウエイトトレーニング |
無酸素パワー | ショートスプリント |
無酸素性持久力 | インターバル走 |
有酸素持久力 | ランニング |
調整力 | コーディネーショントレーニング |
柔軟性 | ストレッチ |
体力トレーニングの基本原則
体力トレーニングを合理的・計画的に行っていく際には、いくつかの基本原則をふまえておくことが大切である。
ここでは、教育学的原則と生理学的原則に分けて示す。
体力トレーニングの基本原則|教育学的原則
意識性(自覚性)の原則 | トレーニングの意義や内容を理解して行うこと |
全面性の原則 | 身体諸機能をバランスよく高めるように行うこと |
専門性・全面性の原則 | 全面性を配慮しながらその種目に要求される専門的体力を高めるように行うこと |
個別性の原則 | 身体諸機能の個人差、生き方や環境の個人差などを配慮して行うこと |
漸進性の原則 | トレーニング目標や負荷のかけ方などを徐々に高めていくこと |
漸進性・究極性の原則 | 究極の目標などを考慮しながら、負荷のかけ方などを徐々に高めていくこと |
継続性の原則 | 継続して行うこと |
反復性の原則 | 繰り返し行うこと |
安全性の原則 | 負荷の安全性に絶えず配慮して行うこと |
経済性の原則 | できる限りムダを避け、効率を重んじること |
生活性の原則 | 生活のなかのあらゆるものを活用して行うこと |
レクリエーション性の原則 | 厳しさの中にも楽しさを味わえるように行うこと |
意識性の原則から反復性の原則までは、古くから教育の場で用いられているものである。
ここでは、体力トレーニングの場を考慮して、さらにいくつかの原則を加えている。
これらの原則を詳細に述べることは割愛するが、野球におけるトレーニングの様々な場面と関連づけて常に思い出すことが大切であろう。
体力トレーニングの基本原則|生理学的原則
生理学的原則は以下の3つ。
・オーバーロード(過負荷)の原則
・超(超過)回復の原則
・特異性の原則
オーバーロード(過負荷)の原則
オーバーロード(過負荷)の原則とは、普段の活動水準より強い負荷をかけて行うことである。
体力の要素ごとに、トレーニング効果を適切に引き出す負荷のかけ方を工夫することが大切である。
負荷(ロード)が強すぎるとオーバートレーニングになり心身にマイナスの影響を与えることになり、弱すぎると効果が得られなくなるからである。
超(超過)回復の原則
超(超過)回復の原則とは、トレーニングを行うと身体諸機能のレベルは低下するが、その後、時間とともに元のレベル以上に回復することである。
そのため、次のトレーニングはこのタイミングを見計らいながら行うことが重要。
超回復の引き出しは様々である。
強い負荷と弱い負荷をどのように組み合わせるか。
そこに「波状性の原則」(大きな波の中に中ぐらいの波をおき、さらにその中に小さい波をおくようにしておくこと)がある(村木1994)。
この原則に基づき、心身の疲労を配慮しながら超回復を引き出し、より高い成果が得られるトレーニング計画を立てることになる。
特異性の原則
特異性の原則とは、体力の各要素を高めるのに最も適した負荷の種類(タイプ)、強度・量・頻度、動き(運動様式)などを用いることである。
この原則は、競技スポーツにおいて特に重要で、トレーニングで用いる動きが重要である。
厳しいトレーニングをしても、各スポーツに関係する動きを用いなければ、競技力(パフォーマンス)の向上に結びつかない場合が多々みられるからである。
野球におけるオーバーロードの原則
野球、特にプロ野球のように試合期が長く試合頻度が多いスポーツにおいては、オーバーロードの原則については注意してとらえなければならない。
試合への影響を最小限に抑えながら、どのような頻度やタイミングで、どのような負荷(強度、量)で体力の各要素を養成するトレーニングを行っていくかに留意する必要がある。
試合に対する準備を優先しすぎて負荷が十分でないと、シーズン後半のパフォーマンス低下を招く原因となりうるだけでなく、中長期的な目標に向かって体力の各要素を向上させることができない。
一方、体力的な向上ばかりを優先すると、試合の中で磨くべき技術習得を妨げる原因になりかねない。
試合期のトレーニングは、チームや各選手のおかれた状況を十分に考慮して進めていくことが大切である。
おわりに
いかがでしたか?
「基本原則」と少しお固い学問的なお話でしたが、パフォーマンスアップのためにはとても重要な視点です。
指導者だけでなく、選手もこの視点を押さえながら練習に取り組むことができるか?
かなりの将来の成長曲線の伸びの違いを生むはずです。

大谷選手も、若き日から現在までそこを意識してトレーニングに取り組み、現在の栄光に至っている感じですね!
基本原則を意識しながら心身をコントロール、パフォーマンスアップできると楽しくなり、選手自らが能動的に考え出し、さらなる心身の成長につながるのではないでしょうか?
今回の記事が野球やスポーツのパフォーマンスに一助になれば幸いです。
では。
・プロ野球日本ハムのトレーナー(2004年〜2010年、2013年〜2017年)
・ダルビッシュ有選手の専属トレーナー(2012年)
・MLBのパドレスのトレーナー(2017年〜2018年)
・現オリックス・バファローズ巡回ヘッドコーチ(2019年〜)