アキレス腱断裂の原因、予防、治療、リハビリ、復帰の流れ〜スポーツ医学検定より〜

スポーツにおけるアキレス腱断裂。

元広島カープの前田智徳さん、バレー元日本代表の狩野舞子さんなどを思い浮かべ、大怪我という認識は定着しているように思います。

実は、スポーツを楽しむ一般の方にも起こり得るアキレス腱断裂。

今回、スポーツ医学検定1級公式テキストよりその原因や予防、治療、リハビリなど復帰の流れについてご紹介していきます。

アキレス腱断裂とは

アキレス腱は腓腹筋とヒラメ筋の下腿三頭筋の共同腱であり、踵骨に付着している。

アキレス腱は腓腹筋とヒラメ筋の共同腱であり、人体最大の腱である。

アキレス腱断裂は30〜40代に発生しやすく、直接的な外力での損傷ではなく、切り返し動作などを行った際の間接的な外力で損傷する。

保存療法と手術療法のいずれにおいても治癒が見込めるが、競技レベルのスポーツ選手には早期復帰や再断裂率などの観点から手術療法が勧められる。

アキレス腱断裂の治療において、手術を行った方が保存療法より再断裂の危険性が低いとする報告が多いが、感染症を起こすなどの合併症が生じる可能性もある。

 

アキレス腱断裂の受傷機転

急激な切り返し動作や、ダッシュ、ジャンプ・着地動作などで受傷することが多い。

下腿三頭筋が伸長した足関節背屈から、急激な足関節底屈を行う際に遠心性収縮が生じ、その負荷で断裂が生じると考えられる。

特に、膝が伸展した状態で踏み切る際に発生する。

1回の外傷で切れるのではなく、繰り返し加わってきたストレスによって腱に組織学的な変化が生じているところに強い力が加わって発生すると言われている。

アキレス腱炎に対するステロイド注射が、アキレス腱断裂を引き起こしやすくすることもある。

アキレス腱断裂を受傷しやすいアスリートの身体的特徴

・年齢が30代以上

・下腿三頭筋の柔軟性低下

・片足バランス能力低下

・運動前のウォーミングアップ不足

 

アキレス腱断裂の予防

予防として、下腿三頭筋への負荷を減らすためのストレッチが大切である。

このストレッチは膝を伸ばして行うと腓腹筋、膝を曲げて行うとヒラメ筋のストレッチになる。

また、傾斜のある台でストレッチを行うエキセントリックエクササイズも有効である。

アキレス腱断裂を受傷した場合、反対側のアキレス腱も断裂しやすい状態にあるため、その予防は重要である。

 

アキレス腱断裂の症状

受傷した選手は、実際に起こっていなくても急に足関節を後ろに蹴られた、またボールがぶつかったなどと訴えることが多い。

断裂部位には陥凹(かんおう)が触知され、同じ部位に痛みと腫れが出現する。

後日、陥凹の周囲や足部に皮下出血が出現する。

部分断裂などの場合は陥凹が触知されない場合もある。

体重を支えての踵上げができず、通常は歩行困難となる。

足底筋膜が温存された断裂であれば、足関節の底屈が可能となり、歩行が可能な場合もあるため注意を要する。

 

アキレス腱断裂の検査・診断

アキレス腱の断裂部位は陥凹が触知され、基本的に自動での底屈運動ができない。

徒手検査としてトンプソンテストが行われる。

ベッドで腹臥位となり、膝を90°に屈曲させて、足部を確認する。

受傷側では下腿三頭筋の牽引がないため、足関節が底屈とならない。

さらに下腿を把持すると、通常足関節の底屈が起きるが、受傷側では下腿三頭筋からの力が伝わらず、足関節の底屈が起こらない。

 

画像診断として、MRI検査で断裂した腱が確認できるが、超音波検査でも腱の断裂が即座に評価可能である。

 

アキレス腱断裂の治療

受傷後はRICE処置を行い、シーネ固定を用いて足関節を固定する。

保存療法では、足関節を最大底屈させて断端を接触させ、ギブスで固定する。

取り外し可能な専用の装具でもよい。

断端が接触している状態は超音波検査にて確認できる。

いずれの固定でも約2ヶ月間、底屈の角度を徐々に減らしつつ固定を継続する。

 

アキレス腱断裂の復帰の流れ

早期復帰や再断裂率を考慮するとスポーツ選手には手術治療が勧められる。

様々な縫合方法があるが、断裂した腱の内部に4〜6本の強固な糸を通し縫合が行われる。

通常術後4週のギブス固定、術後5週経過後に荷重歩行を開始し、以後段階的にリハビリテーションを進める。

スポーツ復帰までは約6ヶ月以上かかることが多い。

固定を除去した後は足関節の可動域訓練を行い、可動域が改善した約2ヶ月の時点で両足のカーフレイズ(踵を浮かすエクササイズ)を行う。

片足のカーフレイズが可能となった段階で、走行やダッシュなどを許可しアスレチックトレーニングに移る。

 

最近は縫合方法が工夫され、より強固な縫合方法を用いた場合は術後2週程度で足関節を固定しながらの全荷重歩行が許可され、5週経過後に通常歩行が許可されている。

断端の近位および遠位をそれぞれ縫合し、断端部を重ね合わせて縫合する方法が強固である。

競技レベルや競技内容にもよるが早ければ術後4ヶ月でのスポーツ復帰も可能となっている。

 

アキレス腱断裂に対する縫合術の術式は医療機関によっても異なり、術後のリハビリテーションメニューも画一化されていない。

 

アキレス腱断裂のアスレティックリハビリテーション

アキレス腱断裂後の治療は、保存療法と手術療法に大きく分けられる。

いずれの場合も装具装着期間や荷重量は、主治医の指示により決定する。

一般的な術後の足関節装具角度設定

・術後0〜2週:底屈30°

・術後3〜6週:底屈30°〜底屈0°

・術後7週以降:装具なし

早期では、アキレス腱が伸ばされにくい膝屈曲・足底屈位で足趾の運動(足関節底屈位でのタオルギャザー、膝屈曲・足底屈位からの足底屈運動)を行う。

カーフレイズが許可された際には、両脚運動から開始する。

機能回復に合わせて片脚運動へ移行していく。

ランニングやジャンプ動作は、アキレス腱へのストレスが大きくなるため、負荷量を調整しながら段階的に実施する。

ランニングを開始する前に、その場でリズミカルな膝屈曲位での足踏み動作を十分に練習する。

回復段階に応じて、運動レベルを高めていく。

 

アキレス腱断裂後の自己判断によるトレーニング負荷量の増加や競技復帰は再断裂を発生させるリスクとなる。

医師や理学療法士の指示を遵守するのはもちろん、選手や指導者もアキレス腱に負荷がかかる運動を理解しておく必要がある。

 

おわりに

最後にまとめます。

アキレス腱断裂とは

・アキレス腱:腓腹筋とヒラメ筋の共同腱。人体最大の腱

・30〜40代に発生しやすい

・切り返し動作などの際の間接的な外力で損傷

・保存療法と手術療法のいずれにおいても治癒が見込める

・競技レベルのスポーツ選手:早期復帰や再断裂率などの観点で手術療法が勧められる

→感染症など合併症の可能性も

アキレス腱断裂の受傷機転

・急激な切り返し動作や、ダッシュ、ジャンプ・着地動作など

→下腿三頭筋が伸長した足関節背屈から、急激な足関節底屈へ

→遠心性収縮が生じ、その負荷で断裂

・特に、膝が伸展した状態の踏み切りで発生

・1回の外傷で切れる→✕

→繰り返しのストレス→腱の組織学的変化→強い力が加わり発生

・アキレス腱炎に対するステロイド注射:アキレス腱断裂を引き起こしやすくすることも

アキレス腱断裂の予防

・下腿三頭筋への負荷を減らすためストレッチが大切

→膝を伸ばして行うと腓腹筋、膝を曲げて行うとヒラメ筋のストレッチに

・傾斜のある台でストレッチを行うエキセントリックエクササイズも有効

・アキレス腱断裂を受傷した場合、反対側のアキレス腱も断裂しやすい

→その予防は重要

アキレス腱断裂の症状

・受傷時、急に足関節を後ろに蹴られる、ボールがぶつかる感覚

・断裂部位:陥凹(かんおう)が触知。同部位に痛みと腫れ

→後日、陥凹周囲や足部に皮下出血

・部分断裂の場合は陥凹が触知されない場合も

・体重を支えての踵上げは不可。通常、歩行困難

→足底筋膜が温存された断裂:足関節底屈が可能で、歩行可能な場合も

アキレス腱断裂の検査・診断

・基本的に自動での底屈運動は不可

・徒手検査:トンプソンテスト

→ベッド腹臥位。膝90°屈曲位で足部を確認

→受傷側:下腿三頭筋の牽引(−)、足関節が底屈(−)

→下腿を把持:通常、足関節底屈(+)。受傷側:下腿三頭筋からの力の伝達(−)、足関節底屈(−)

・画像診断:MRI検査。超音波検査でも即座に腱断裂の評価可能

アキレス腱断裂の治療

・RICE処置。シーネ固定にて足関節を固定

・保存療法:足関節最大底屈位で断端を接触させ、ギブス固定

・取り外し可能な専用の装具でも可能

→断端の接触は超音波検査にて確認可能

・いずれの固定も約2ヶ月間

→底屈の角度を徐々に減らしつつ固定継続

アキレス腱断裂の復帰の流れ

・スポーツ選手には手術治療が勧められる:早期復帰や再断裂率を考慮

→縫合方法は様々。断裂した腱内部に4〜6本の強固な糸を通し縫合

→通常、術後4週のギブス固定、術後5週経過後に荷重歩行を開始

→以後、段階的にリハビリテーションを進める

→スポーツ復帰まで:約6ヶ月以上かかることが多い

→固定除去後:足関節の可動域訓練

→可動域が改善:約2ヶ月の時点で両足のカーフレイズ(踵を浮かすエクササイズ)

→片足のカーフレイズが可能:走行やダッシュなどを許可

→アスレチックトレーニングへ

・より強固な縫合方法(断端の近位および遠位をそれぞれ縫合し、断端部を重ね合わせて縫合)

→術後2週程度で足関節固定での全荷重歩行が許可

→5週経過後に通常歩行が許可

→早ければ術後4ヶ月でのスポーツ復帰も(競技レベルや内容にもよる)

・縫合術の術式は医療機関によって異なる

→術後のリハビリメニューも画一化されていない

アキレス腱断裂のアスリハ

・装具装着期間や荷重量は、主治医の指示により決定

・早期:アキレス腱が伸ばされにくい膝屈曲・足底屈位で足趾の運動

→足底屈位でのタオルギャザー、膝屈曲・足底屈位からの足底屈運動

・カーフレイズが許可:両脚運動から開始

→機能回復に合わせて片脚運動へ

・ランニングやジャンプ動作は、アキレス腱へのストレスが大きい

→負荷量を調整しながら段階的に実施

→ランニング開始前に、その場で膝屈曲位での足踏み動作を十分に練習

→回復段階に応じ運動レベルを高める

・自己判断によるトレーニング負荷量の増加や競技復帰:再断裂を発生させる可能性

→医師や理学療法士の指示を遵守

→選手や指導者もアキレス腱に負荷がかかる運動を理解しておく

以上、スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]

の「アキレス腱断裂」からの引用でした。

なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。

読者の健康で楽しいスポーツの一助になれば幸いです。

では。