今回は肩の脱臼について。
スポーツ医学検定公式テキストより、その原因、症状、検査・診断、治療・復帰の流れをご紹介します。
肩関節脱臼とは
肩関節脱臼は上腕骨頭が肩甲骨関節窩に対して主に前下方に脱臼するスポーツ外傷である。
その際に、上腕骨後外側(Hill-Sachs病変)と肩甲骨関節窩に付着する前下方関節唇(Bankart病変)に損傷を生じる。
これらは自然治癒しにくいために、脱臼が反復(再発)しやすい。
20歳以下ではおよそ90%以上の確率で反復する。
また、脱臼直後に自己整復できたとしても、痛みのため競技の継続は困難である。
よって若年者の2回以上の脱臼には手術が推奨される。
肩関節脱臼の受傷機転・予防
ラグビーやレスリングのタックル、野球のヘッドスライディング動作などで受傷することが多い。
肩が外転した位置で、上腕に強制外旋や強制水平伸展が加わると上腕骨頭には前方方向に強い力がかかり、関節窩に付着する関節唇靭帯複合体が破綻し、脱臼する。
損傷部位は90%以上が関節唇(Bankart病変)、残りは関節包断裂や関節包上腕付着部損傷(HAGL病変)である。
関節上腕靭帯には上・中・下の3つがあり、前下方への脱臼を制動するのに重要な役割を果たすのは下関節上腕靭帯である。
無理な肢位でのタックルを避ける技術の習得や、肩関節のアウターマッスルおよびインナーマッスルの強化があげられるが、完全に予防することは難しい。
元々関節弛緩性があるような場合に生じる多方向性不安定性では、明らかな関節唇損傷を伴わないこともある。
肩関節脱臼の症状
脱臼した際は、非常に強い痛みのため患肢を下垂し、反対側の手で肩を支えるような動作を示す。
脱臼した直後に自然整復されることもあり(亜脱臼)、また体動により自己整復される場合もある。
もともと肩の緩みが少なく肩周囲筋が多い競技者は、整復にも時間を要することがある。
このようなケースでは骨頭とともに前方に牽引された腋窩神経障害により肩外側が一過性に知覚鈍麻となることもある。
3週間の外固定後、リハビリテーションで可動域を回復させて2ヶ月前後で競技復帰可能であるが、反復性に移行する確率は若年者ほど高く、20歳以下ではおよそ90%である。
反復せずとも、不安感のためタックルが出来ない、投球が出来ない(投球時の肩外転外旋位と脱臼肢位は近似している)などパフォーマンスが低下する。
肩関節脱臼の検査・診断
問診によってはじめて脱臼だったと認識する選手もいる。
自己整復の有無や整復までの所要時間、受傷肢位(野球のヘッドスライディングの時など)、外固定の期間、2回目の脱臼までの期間、2回目以降の脱臼原因(より軽い外力で脱臼することが多い)などが重要である。
MRI検査は非常に有用であり、関節唇の損傷であるBankart病変や上腕骨側のHill-Sachs病変を確認できる。
またCT検査では、脱臼時に生じた臼蓋側の骨片やHill-Sachs病変を確認できる。
肩関節脱臼の治療・復帰の流れ
脱臼した場合、無理に引っ張るなどの整復操作を行うと骨折を生じることもあるため、専門家に整復を行ってもらう。
様々な肩関節脱臼の整復方があるが、ゼロポジションの方向にゆっくりと牽引する方法が最も合併症が少なく安全である。
脱臼後の外固定には、関節唇の部分修復や周囲の癒着による制動効果を期待して3週間の外固定が行われる。
しかし通常の内旋位固定では再脱臼を予防することは難しく、肩外旋位が効果を上げるとの報告もある。
初回脱臼は再発しない可能性があるため、年齢や競技種目を考慮して、保存療法で復帰させる。
また、上腕骨頭の逸脱に肩甲骨を追随させるために、
も行われる。
しかし、再脱臼を完全に予防できるほどの効果はない。
ラグビーでは脱臼肢位を避けるタックルスキルを向上させることも大切である。
2回以上の脱臼経験があり、再脱臼する不安感からパフォーマンスが低下している場合は手術を選択する。
主に関節鏡で行われる関節唇靭帯複合体を修復する手術では、損傷した関節唇をアンカーを用いて解剖学的に修復する。
野球やバレーボールなどのオーバーヘッドスポーツに良い適応がある。
肩甲骨の烏口突起を上腕二頭筋と烏口腕筋の腱が付着した状態のまま関節窩に移行して金属スクリューで固定する方法は、通常関節を切開して行われる。
ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツで選択されることが多い。
また両者を組み合わせた手術が行われることもある。
いずれにしても、術後復帰には少なくとも4〜6ヶ月を要する。
おわりに
最後にまとめます。
・上腕骨頭が肩甲骨関節窩に対して主に前下方に脱臼するスポーツ外傷
→上腕骨後外側(Hill-Sachs病変)と前下方関節唇(Bankart病変)に損傷
→自然治癒しにくく脱臼が反復(再発)しやすい
→20歳以下ではおよそ90%以上の確率で反復
・脱臼直後に自己整復できたとしても、痛みのため競技の継続は困難
→若年者の2回以上の脱臼には手術が推奨
・ラグビーやレスリングのタックル
・野球のヘッドスライディングなど
・肩外転位&上腕に強制外旋や強制水平伸展が加わる
→上腕骨頭に前方方向に強い力
→関節窩に付着する関節唇靭帯複合体が破綻
→脱臼
・損傷部位は90%以上が関節唇(Bankart病変)
・残りは関節包断裂や関節包上腕付着部損傷(HAGL病変)
・予防として、
①無理な肢位でのタックルを避ける技術の習得
②肩関節のアウターマッスルおよびインナーマッスルの強化
があげられるが、完全に予防することは難しい
・元々関節弛緩性があるような場合に生じる多方向性不安定性
→明らかな関節唇損傷を伴わないことも
・問診では、
①自己整復の有無
②整復までの所要時間
③受傷肢位(野球のヘッドスライディングの時など)
④外固定の期間
⑤2回目の脱臼までの期間
⑥2回目以降の脱臼原因(より軽い外力で脱臼することが多い)
などが重要で、問診ではじめて脱臼と認識する選手も
・MRI検査は非常に有用
→関節唇の損傷であるBankart病変や上腕骨側のHill-Sachs病変を確認
・CT検査
→脱臼時に生じた臼蓋側の骨片やHill-Sachs病変を確認
・整復は専門家に行ってもらう
→無理に引っ張るなどの整復操作を行うと骨折を生じることも
→ゼロポジションの方向にゆっくりと牽引する方法が最も合併症が少なく安全
・脱臼後の外固定:3週間
→関節唇の部分修復や周囲の癒着による制動効果を期待
→通常の内旋位固定では再脱臼の予防効果低い
→肩外旋位が効果を上げるとの報告も
・初回脱臼は再発しない可能性あり
→年齢や競技種目を考慮して、保存療法で復帰
・上腕骨頭の逸脱に肩甲骨を追随させるために、
①肩甲骨の可動性を高めるリハビリ
②関節唇関節包の外部にあるインナーマッスルの強化
も行われる
→再脱臼の完全予防効果はない
・ラグビーでは脱臼肢位を避けるタックルスキルの向上も大切
・関節鏡で行われる関節唇靭帯複合体の修復手術
→損傷した関節唇をアンカーで解剖学的に修復
→オーバーヘッドスポーツ(野球やバレーボール等)に適応
・肩甲骨の烏口突起を上腕二頭筋と烏口腕筋の腱が付着した状態のまま関節窩に移行して金属スクリューで固定
→通常関節を切開
→コンタクトスポーツ(ラグビーやアメリカンフットボール等)での選択が多い
・両者を組み合わせた手術が行われることも
→いずれにしても、術後復帰には少なくとも4〜6ヶ月を要す
以上、
スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]の「肩関節脱臼」からの引用でした。
なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。
読者の親子で健康で楽しいスポーツの一助になれば幸いです。
では。
・肩甲骨の可動性を高めるリハビリ
・関節唇関節包の外部にあるインナーマッスルの強化