野球に筋トレ。
トレーニングの一つとして、今や当たり前に定着しているのではないでしょうか。
しかし筋トレの原理をふまえ、「いつ」「どのように」行うかを理解していないと、効果がでないどころか、ケガにつながる恐れもあります。
今回は、
と、レジェンド級にトレーナーとしてご活躍中の中垣征一郎氏の唯一の著書「野球における体力トレーニングの基礎理論」から、柔軟性のトレーニングについて言及されている部分をご紹介します。
筋力とは

筋力は、筋が収縮したときに発揮する力のことである。
筋力の発揮の仕方には3種類ある。
・アイソメトリック筋力(等尺性筋力):筋が長さを変えないで発揮する力
・コンセントリック筋力(等縮性筋力):筋が短くなりながら発揮する力
・エキセントリック筋力(伸張性筋力):筋が長くなりながら発揮する力
腕相撲での上腕二頭筋を例にとると、
・両者がつり合っているときは等尺性(筋は発揮しているが筋の動きはない)
・勝っているときは短縮性(力の方向と筋の動きの方向が同じ)
・負けているときは伸張性(力の方向と筋の動きの方向が反対)
で筋力を発揮している。
下図は筋の収縮速度と収縮力との関係(筋の力-速度曲線)を示したものである。
短縮局面では、
収縮速度が小さいときは大きな力を発揮
収縮速度が大きくなれば小さい力を発揮
となる。
伸長局面では、等尺性筋力よりも大きな力を発揮する。
見た目には、
引いているときよりも引っ張られているとき
押しているよりも押し込まれているとき
の方が大きな力を発揮するということである。
これらの生理学的事実は、技術や体力、あるいはそれらのトレーニング方法を考える際に有用になろう。
筋力の評価法

筋力の優劣は最大筋力で評価する。
その主な評価方法は次の通りである。
静的評価:等尺性の最大筋力。例)握力の測定
動的評価:1RM(Repetition Maximum)。バーベル等を1回挙上できる最大重量
静的方法は測定器具・機器が必要であるが、動的方法は安全性を配慮すれば手軽に測定できる。
数回(10回以内)繰り返すことができる重量を測定することによって、より安全に最大筋力を推定することもできる。
また、Cybexなどを使って様々な角速度での筋力を測定することや、力の立ち上がりの速さを計測することも可能である。
力の立ち上がりが速いことは、爆発的に力を発揮するための重要な要素の一つである。
筋力に影響する要因
最大筋力に影響する要因を知ることは、トレーニング方法を考える際に役立つ。
最大筋力に影響する主な要因として、
・筋の横断面積
・筋に力を発揮させる神経・筋機能(運動単位の動員能力)
の2つが挙げられる。
筋力のトレーニング法
筋力に影響する主な2つの要因に基づき、筋力トレーニングの方法は大きく2つに分類される。
最大筋力の向上をねらいとした筋力トレーニング法
神経・筋機能の改善をねらいとし、高強度・低回数、セット間に比較的長い休息時間(レペティション法)を用いることに特徴がある。
高強度で行うことにより、運動単位の動員数が多くなる。
筋の質(筋断面積あたりの筋力)を高めるために、競技者が昔からよく用いている方法である。
筋肥大をねらいとした筋力トレーニング法
筋断面積の増大(筋量の増大)をねらいとし、中強度・中回数、セット間に比較的短い休息時間(短インターバル法)を用いることに特徴がある。
スローリフト法、加圧法などもこのタイプのトレーニングである。
これらの方法はいずれも、筋の低酸素化による成長ホルモンの分泌を通して筋のタンパク代謝を促進すると言われている。
元々、筋の量を増やすためにボディビルダーがよく用いていたが、最近は競技者もよく用いている。
野球における筋力トレーニングの留意事項
野球選手が筋力トレーニングを行うことの是非については、今もなお議論されている。
一流選手を見ても筋力トレーニングを全く行わない者もいれば、しっかりと筋力トレーニングを行って成功した者もいれば失敗した者もいるからである。
このような状況であるが、筆者は筋力トレーニングを意図的に計画的に行うべきであるという立場である。
それは、野球における運動技能はほとんど全てがスピード・パワーを発揮するためにはその基礎である筋力の向上を図っておくことが大切であるからである。
問題は、何に留意しながら筋力トレーニングを行っていくかであろう。
ここでは、特に気をつけなければならない筋力トレーニングにおける主な留意事項を述べることとする。
筋力トレーニングで用いる動きに留意する
爆発的な力の発揮に効率的な動き、かつ野球の動き(技術)と関連のある動きを重視することが大切である。
筋肥大をねらいとした筋力トレーニングの取り入れ方に留意する
どこまで筋を肥大させるのかを、個人の身体的・技術的特性によって適切に判断することが大切である。
筋肥大偏重の筋力トレーニング手段には、力の発揮を効率的に行うための動作に対する考慮が足りないものが多いことにも注意することが重要である。
筋力トレーニングの後に行う運動に留意する
特に高強度の筋力トレーニングを行った後には、クールダウンとして動的ストレッチや静的ストレッチを行い、柔軟性の低下を防ぐことが大切である。
1日のトレーニングの中での筋力トレーニングの取り入れ方に留意する
筋肥大を目的とするような、量が多く疲労が残りやすいトレーニングを行う場合には、技術練習や無酸素性パワーを養成するためのトレーニングを行った後で行うことが望ましい。
しかし、試合期などで時間的な制約がある場合には、筋力の維持を目的としたトレーニングであれば、強度と量を十分に考慮して全てのトレーニングの前に行う場合もある。
発育発達期における筋力トレーニングの取り入れ方に留意する
発育発達期における過度な筋力トレーニングは避けるべきである。
最も大きな理由としては、技術的にも未熟で形態的に未発達な場合に、骨や関節周囲の軟部組織は柔らかく、腱や靭帯の付着部は脆弱であることが挙げられる。
筋力強化が先行しすぎると、1回1回の運動による力の発揮の大きさにより局所に大きなストレスを加え、大きな傷害を引き起こす可能性を高める。
筋力トレーニングは成長過程を十分に考慮しながら行われるべきである。
肩関節周辺の回旋筋群(インナーマッスル)、肘周囲の筋群、体幹部の筋群の筋力トレーニングの取り入れ方に留意する
これらのトレーニングは習慣化して毎日のように行うことが有効である。
重点的に行う場合を除けば、技術練習や他のトレーニングに対する影響はそれほど大きくないので、トレーニング全体のスケジュールの中では、1日の中で最も組み込みやすいタイミングで継続的に行うことが大切である。
肩関節に機能不全などの問題を持つ選手の場合には、スローイングの前に行い、肩周辺の神経-筋や関節受容器の機能を充実させておくことが有効である。
傷害後の回復過程における筋力トレーニングの取り入れ方に留意する
単純に筋力の最大値だけでなく、関節のあらゆる角度での力の発揮や、力の立ち上がり速度を回復・改善するように留意することも大切である。
野球における筋力トレーニング手段
以下は、野球選手に必要な代表的な筋力トレーニング手段である。
①ウェイトトレーニング
②各種体幹部のトレーニング
③肩関節周辺の回旋筋群(インナーマッスル)や肘周囲の筋力トレーニングなど
①と②は主に野球選手にとって必要な全身的な筋出力を向上させることを目的としたトレーニングである。
③は主に野球に特有の局所的なストレスに耐えうるための、傷害予防のための筋力トレーニングである。
ここでは主に①に関する記述にとどめる。
②や③のトレーニングに関するアイデアについては数多くの指導書が出版されている。
目的にしたがってこれらを参考にされたい。
野球と筋力
ウェイトトレーニングは野球選手にとって代表的な筋力トレーニングの手段と言えるが、野球選手のパフォーマンスを向上させるために必要な筋力とはどのようなものかを限定することは容易ではない。
例えば、体重別に分けられている柔道やレスリング、ウェイトリフティングなどの選手であれば、体重あたりの筋力(相対筋力)を向上させるための取り組みが必要である。
体重制限のない陸上競技のハンマー投げや砲丸投げの選手であれば、自分の身体の動きをコントロールできる範囲でできるだけ大きな筋力(絶対筋力)を身につけることが有効である。
野球における筋力とパフォーマンス
野球選手の場合には、筋力を基礎とした無酸素性パワーの能力を背景に投打を中心とする野球技術が発揮されるが、その発揮形態は状況によっても、個人のプレースタイルによっても様々である。
筋力トレーニングは、技術や体力トレーニングの中で定期的に計画性を持って意図的に組み込まれなければならない。
ただし、筋力を飛躍的に向上させたにも関わらず野球選手としてのパフォーマンスを思うように反映されない例は少なくない。
一方で、筋力の向上とともに飛躍的なパフォーマンス向上につながる選手もいる。
野球選手にとって筋力を開発することは大切であるが、筋力を活かす能力そのものが個人に備わっているかを考える必要がある。
筋力はあくまで出力を大きくするための一条件であり、これを実際に効率的な動き方で集中的、爆発的に野球技術の中で発揮することが、筋力をパフォーマンスの中で活かすためには大切である。
いずれにせよ、野球選手が競技力を支える一要素として筋力が不可欠であることは疑う余地はない。
野球おける筋力トレーニング|ウェイトトレーニング
選手の成熟度合いや個性を考慮して、筋力トレーニングは技術・体力トレーニング全体の中で計画的に行わなければならない。
筋力の向上・維持は、選手にとっては大きな時間と労力を要するが、計画的にトレーニングを行うことで比較的管理しやすい体力要素でもある。
全身的な出力を向上させる筋力トレーニングとして最も典型的な手段はウェイトトレーニングである。
運動の選択や強度と量の設定を十分に考慮した上で、ウェイトトレーニングを中心とした筋力トレーニングを行うことが重要である。
おわりに
最後にまとめます。
・筋が収縮したときに発揮する力のこと
・筋力の発揮の仕方は以下の3種類
・アイソメトリック筋力(等尺性筋力):筋が長さを変えないで発揮する力
・コンセントリック筋力(等縮性筋力):筋が短くなりながら発揮する力
・エキセントリック筋力(伸張性筋力):筋が長くなりながら発揮する力
・腕相撲での上腕二頭筋を例にとると、
・両者がつり合っているときは等尺性(筋は発揮しているが筋の動きはない)
・勝っているときは短縮性(力の方向と筋の動きの方向が同じ)
・負けているときは伸張性(力の方向と筋の動きの方向が反対)
・短縮局面では、
収縮速度が小さいときは大きな力を発揮
収縮速度が大きくなれば小さい力を発揮
となる
・伸長局面では、等尺性筋力よりも大きな力を発揮
・見た目には、
引いているときよりも引っ張られているとき
押しているよりも押し込まれているとき
の方が大きな力を発揮するということ
・筋力の優劣は最大筋力で評価
・その主な評価方法は以下
静的評価:等尺性の最大筋力。例)握力の測定
動的評価:1RM(Repetition Maximum)。バーベル等を1回挙上できる最大重量
・静的方法は測定器具・機器が必要
・動的方法は安全性を配慮すれば手軽に測定可能
→数回(10回以内)繰り返すことができる重量を測定
→より安全に最大筋力を推定することも
・Cybexなどを使って様々な角速度での筋力を測定することや、力の立ち上がりの速さを計測することも
→力の立ち上がりの速さは、爆発的な力発揮の重要な要素の一つ。
・最大筋力に影響する主な要因は以下の2つ
・筋の横断面積
・筋に力を発揮させる神経・筋機能(運動単位の動員能力)
・筋力に影響する主な要因に基づき、大きく2つに分類
・神経・筋機能の改善をねらう
→高強度・低回数&セット間に比較的長い休息時間
・高強度で行う→運動単位の動員数⇧
・筋の質(筋断面積あたりの筋力)を高めるために、競技者が昔からよく用いている
・筋断面積の増大(筋量の増大)をねらう
→中強度・中回数&セット間に比較的短い休息時間
・スローリフト法、加圧法などもこのタイプ
・筋の低酸素化による成長ホルモンの分泌
→筋のタンパク代謝を促進と言われている
・元々、ボディビルダーがよく用いていたが、最近は競技者もよく用いている
①筋力トレで用いる動きに留意
→爆発的な力の発揮に効率的な動き、かつ野球の動き(技術)と関連ある動きを重視する
②筋肥大をねらいとした筋力トレの取り入れ方に留意
→どこまで筋を肥大させるのかを、個人の身体的・技術的特性によって適切に判断する
→力の発揮を効率的に行うための動作に対する考慮が足りないものが多いことにも注意
③筋力トレの後に行う運動に留意
→特に高強度の筋力トレを行った後には、クールダウンとして動的ストレッチや静的ストレッチを行い、柔軟性低下を防ぐことが大切
④1日のトレーニングの中での筋力トレの取り入れ方に留意
→筋肥大を目的とするような、量が多く疲労が残りやすいトレーニングを行う場合には、技術練習や無酸素性パワーを養成するためのトレーニングを行った後で行う
→しかし、試合期などで時間的な制約がある場合には、筋力の維持を目的としたトレーニングであれば、強度と量を十分に考慮して全てのトレーニングの前に行う場合も
⑤発育発達期における筋力トレの取り入れ方に留意
→発育発達期における過度な筋力トレは避けるべき
→技術的にも未熟で形態的に未発達な場合に、骨や関節周囲の軟部組織は柔らかく、腱や靭帯の付着部は脆弱である
→筋力強化が先行しすぎると、1回1回の運動による力の発揮の大きさにより局所に大きなストレスを加え、大きな傷害を引き起こす可能性
⑥肩周辺の回旋筋群、肘周囲の筋群、体幹筋群の筋力トレの取り入れ方に留意
→習慣化して毎日のように行うことが有効
→重点的に行う場合を除けば、技術練習や他のトレーニングに対する影響はそれほど大きくない
→トレーニング全体のスケジュールの中では、1日の中で最も組み込みやすいタイミングで継続的に行うことが大切
→肩関節に機能不全などの問題を持つ選手の場合には、スローイングの前に行い、肩周辺の神経-筋や関節受容器の機能を充実させておくことが有効
⑦傷害後の回復過程における筋力トレの取り入れ方に留意
→単純に筋力の最大値だけでなく、関節のあらゆる角度での力の発揮や、力の立ち上がり速度を回復・改善するように留意
いかがでしたか?
筋トレを行う前に、体の発達段階や、ポジション、プレースタイルに見合ったトレーニング方法を、1日・シーズンの中で適切なタイミングで選択する必要があるようです。
一方、フライボール革命で昨今キーワードになっている「バレルスイング」には、一定以上のスイングスピードが必要です。
そのスイングスピードを生むには、除脂肪体重65kg以上必要という研究もあるようです。

体格に劣る選手は、一定の高い水準に到達するには筋トレは必要なのかも…
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では。
・プロ野球日本ハムのトレーナー(2004年〜2010年、2013年〜2017年)
・ダルビッシュ有選手の専属トレーナー(2012年)
・MLBのパドレスのトレーナー(2017年〜2018年)
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