大人と子どもは同じ人間とは言え、心身の構造や機能が異なります。
その中で大人と同じようにスポーツを行えば、パフォーマンス低下だけでなく、怪我につながり兼ねません。
一度怪我をすると、スポーツからの離脱を余儀なくされます。
また、子どもの心身の構造の理解が出来ていないと、怪我からの回復が遅れるだけでなく、障害が残り、スポーツを続けられなくなる可能性も。
今回「スポーツ医学公式テキスト1級」をもとに、成長期のスポーツについて述べていきます。
健全にお子さんとスポーツを楽しむ未来のために、ぜひご一読ください。
成長期の子どものスポーツでの注意点~身体発育〜
成長期の骨は、骨を覆う骨膜の部分で太くなり、骨端線(成長線)で長くなる。
身長の伸びは骨の成長に依存する。
骨によって骨端線の閉鎖時期は異なり、肩甲骨や骨盤など中枢側で閉鎖時期が遅い。
骨の成長には個人差があるものの、一般的な骨の成長速度のピークは女子で12歳、男子で14歳頃である。
また、身長が止まるのは女子で14~15歳、男子で16~17歳頃である。
成長期の子どものスポーツでの注意点~骨端症〜
小児の骨は骨端線(成長軟骨)や成熟過程の骨端軟骨(骨端核)など軟骨成分が多く、力学的ストレスに弱いのが特徴。
また成長期では骨に比べて筋肉や腱の成長速度が緩徐であるため、相対的に筋肉・腱は引き伸ばされて過緊張の状態になる。
このため、腱の付着部位には負荷がかかりやすく、負荷が蓄積されると正常な成長過程が阻害される。
これらの付着部に痛みが生じるものは、骨端症と呼ばれ、
が有名である。
短腓骨筋腱の牽引による第5中足骨基部の骨端症はIselin症と呼ばれる。
成長期にはアキレス腱断裂の発生は少ない。
また、ハムストリングスが起始する坐骨部などでの剥離骨折も起こりやすい。
靭帯に関しては、靭帯実質部での損傷より、靭帯付着部で損傷することが多い。
成人では足関節捻挫により外側靭帯損傷が生じるが、成長期では靭帯付着部で剥離骨折を生じやすい。
関節軟骨は成人に比べて厚いが、力学的に弱く、関節軟骨が骨とともに剥がれる離断性骨軟骨炎が発生することがある。
骨折を生じた場合の自然治癒力や自己矯正能は成人よりも旺盛であり、骨折による手術の適応は成人に比べて少ない。
しかし鉄棒などからの落下で肘を伸ばしたまま手をついた場合、転位の大きな大腿骨顆上骨折を受傷することがある。
このようなケースでは、肘の変形・可動域制限を残す可能性があるため、手術が行われる。
また、血流障害からコンパートメント症候群が生じることがあり、注意が必要である。
成長期の子どものスポーツでの注意点~心臓震盪〜
胸壁がまだ柔らかい若年者の前胸部に野球やサッカーのボールなどが当たった際、致死的な不整脈である心室細動が生じる病態を心臓震盪という。
健常である小児のスポーツ中の突然死の原因となるため、一刻も早い胸骨圧迫およびAEDによる除細動などの救命処置が必要である。
成人での報告例もある。
成長期の子どものスポーツでの注意点~熱中症〜
小児は成人より、
・体の水分成分が多い割に発汗量が少なく、暑熱環境への馴化が遅い
・代謝が早い割に腎臓の機能が未熟
ことなどが影響して、脱水や熱中症になりやすい。
発熱や嘔吐、下痢などの症状がある時はスポーツを控え、運動前と運動中の水分および塩分の補給をすること、WBGTを参考に運動を考慮することが重要である。
体育館などの屋内競技でも発生しうることに注意したい。
成長期の子どものスポーツでの注意点~気管支喘息〜
気管支喘息は頻度の高い疾患である。
運動が契機となって喘息発作が生じる運動誘発性喘息では、運動による身体的疲労感や呼吸困難との区別が小児では特に難しく、確定診断には運動負荷試験が必要である。
喘息はステロイド薬の吸入を持続的に行い管理することが一般的である。
運動参加については、吐き出す息の速さの最大値であるピークフローが参考にされる。
発作が起きない強度の有酸素運動は心肺機能を高め、運動誘発喘息を減らし、喘息の症状を軽減させる。
成長期の子どものスポーツでの注意点~成長期における女子アスリートの問題〜
日本人の平均初経年齢は約12歳だが、体操や新体操などの審美系競技では15~16歳と遅い傾向にある。
これは競技開始年齢が低く、
小児期から体重管理される
↓
摂取エネルギー量不足や低体重となる
ことが影響したためと推察される。
運動量に見合ったエネルギー量を摂取することは非常に重要である。
女性の最大骨獲得時期は20歳頃であり、そのあと緩やかに骨量は減少し、閉経後に急激に減少する。
最大骨獲得時期を過ぎた後に治療を行っても骨量は改善しないケースが多いため、10代における女性アスリートの三主徴の予防は重要である。
女性アスリートの三主徴のうち、
・1つを認める場合疲労骨折のリスクは2~4倍
・三主徴をすべて認める場合は6倍以上になる
と報告されている。
また、16~17歳で疲労骨折が好発している。
摂食障害や食行動の異常につながることもあるため、指導者、保護者、学校の養護教諭を含めた連携が重要。
成長期の子どものスポーツでの注意点~成長期の選手の栄養〜
主食、主菜、副菜×2、乳製品、果物の6皿をバランスよく摂取することが大切である。
空腹状態でのトレーニングは好ましくない。
食事の間隔によっては、補食としてパン、おにぎり、バナナなどの炭水化物を摂取しておくとよい。
男児のおおよその推定エネルギー必要量(kcal/日)を表に示す。(日本人の食事摂取基準2015年版より抜粋)
身体活動レベル | 低い | 普通 | 高い |
6-7歳 | 1,350 | 1,550 | 1,750 |
8-9歳 | 1,600 | 1,850 | 2,100 |
10-11歳 | 1,950 | 2,250 | 2,500 |
12-14歳 | 2,300 | 2,600 | 2,900 |
15-17歳 | 2,500 | 2,850 | 3,150 |
女児は以下。
身体活動レベル | 低い | 普通 | 高い |
6-7歳 | 1,250 | 1,450 | 1,650 |
8-9歳 | 1,500 | 1,700 | 1,900 |
10-11歳 | 1,850 | 2,100 | 2,350 |
12-14歳 | 2,150 | 2,400 | 2,700 |
15-17歳 | 2,050 | 2,300 | 2,550 |
おわりに
最後にまとめます。
①骨の軟骨成分が多い
②成長の速さ:骨>筋肉
→相対的に筋肉硬くなる
↓
オスグットシュラッター病などの骨端症、骨盤剥離骨折、離断性骨軟骨炎など
心臓震盪
脱水
気管支喘息
運動量に比べ摂取エネルギー量不足や低体重
↓
疲労骨折リスク↑
↓
①バランスよく食事
(エネルギー必要量は上の図を参照)
②空腹時は消化のよい炭水化物で補食
以上、
スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]の「スポーツ外傷・障害の知識 ~成長期のスポーツ~」からの引用でした。
なお、スポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。
成長期の心身の特性を踏まえた適切な関わりにより、子どもの成長とともに、パフォーマンスアップと親子の幸せな時間の共有ができるとよいですね。
では。
・アキレス腱が付着する踵骨で生じるシーバー病
・大腿四頭筋から連続する膝蓋腱が付着する脛骨粗面で生じるオスグッド・シュラッター病