投球動作における肩・肘の痛みに対する原因別のリハビリ方法

楽しく野球をプレイする上でさまたげとなる肩や肘の痛み。

人によって、痛みが出る部位や投球のタイミングは異なります。

その痛みは「姿勢」が影響を与えており、姿勢は「筋肉」が作っています。

前回はその痛みの原因をひも解く「運動連鎖」の考えから、痛みの要因「姿勢」と姿勢を作る「筋肉」の探索方法についてご説明しました。

今回はその原因別のリハビリ方法をご説明します。

今回は主に運動連鎖から考える投球障害 パフォーマンスUP! [ 森原徹 ]を参考に構成しています。


股関節へのアプローチ|step1

投球動作における肩・肘の痛みの原因となりうる股関節のインナーマッスル腸腰筋のイラスト

股関節周囲筋へのスクリーニングテストで改善がみられた場合は、以下のアプローチを行います。

股関節インナーマッスルの収縮弛緩エクササイズ

低負荷での運動を行うことで、股関節のインナーマッスルの調整が行えます。

セルフチェック

背臥位で片膝を胸に近づけるように抱えます

→股関節のつまり感、上がりやすさの左右差をチェックします

エクササイズ

①バランスボールに座る

②つまり感のある側からボール転がす(前後、左右、回す)

③股関節の中が重だるくなるまで行う

再チェック

セルフチェックを再度行い、つまり感や上がりやすさが改善したかを確認

→改善していれば、反対も同様にエクササイズを行う

 

股関節の前面・後面のストレッチ

投球動作に必要な腰割りでチェックしていきます。

セルフチェック

①立位で両脚、つま先を開き、両脚と床で正三角形となる姿勢を作る

②膝と股関節を曲げ、お尻がどれくらい沈むかチェック

股関節のストレッチ①

①ガニ股の体勢で両膝を床につけ、両足裏は合わせる

②手を置いている前に体を移動させ、ストレッチを行う

③足を広げた状態で、体を前後に動かし同様にストレッチを行う

股関節のストレッチ②

①あぐらの体勢から、片方の脚をもう片方の大腿に置く

②膝を持ち、体に引き寄せる

※お尻が浮かないよう、やりやすい方から行う

再チェック

セルフチェックの腰割りを再度行い、つまり感やお尻の沈みやすさが改善したかを確認

 

股関節へのアプローチ|step2

step1の股関節アプローチにより、腰割り動作が十分に可能になれば次のトレーニングに移ります。

内転筋トレーニング

内転筋トレーニング①

①立位で両脚、つま先を開き、両脚と床で正三角形となる姿勢を作る

②腰割り姿勢でスクワットを行う

※内転筋の働きを感じながら行うこと

※無理に低く沈むとお尻が固くなるため、無理のない範囲で行う

※膝が内側に向かないようつま先と膝の向きをそろえる

内転筋トレーニング②

①腰割り姿勢になる

②左右に体重移動する

※内転筋の働きを感じながら行うこと

※左へは左脚の内転筋、右へは右脚の内転筋と、体重移動と同時に働く筋の変化を感じる

※膝が内側に向かないようつま先と膝の向きをそろえる

 

ハムストリングトレーニング

①フォワードランジ

①立位の姿勢から足をまっすぐ踏み出す

②踏み出した足の膝が内側や外側へ倒れないように保持する

※体が傾いたり、ふらついたり、手でバランスをとらない

②ランジホールド(ペアで行う)

①フォワードランジの姿勢をとる

②パートナーの指で左右から抵抗をかけられても姿勢を保持する

※脱力、姿勢の崩れ、膝の内側・外側への崩れがないようにする

③ハムストリングトレーニング

①後ろ足を台に置いたフォワードランジの姿勢をとる

②股関節・膝関節の曲げ伸ばしを行う

※前脚のハムストリングの働きを感じながら行うこと

※「膝がつま先より前に出る」「膝の内側・外側への崩れ」「体の前傾」「骨盤がまわる」ことがないようにする

 

腰背筋群へのアプローチ

腰背筋群へのスクリーニングテストで改善がみられた場合は、以下のアプローチを行います。

腰背筋群の過緊張改善ストレッチ

セルフチェック

腹臥位で手で床を押しながら体幹を反らします。

→腰の反らしやすさ、つまり感をチェック

腰背部のストレッチ①

①背臥位で腰背部の下にボールを置く

②両手はバンザイし、3回深呼吸する

③腰から首の手前まで下から順に3箇所それぞれ行う

※腰痛を生じる場合は行わない

腰背部のストレッチ②

①腹臥位で肘を床について体を反らす

②肘はついたまま正座の姿勢になり背中を丸める

③体を反らした際に深呼吸を行う

④ ①と②を3回繰り返す

→深呼吸で息を吐いたときに徐々にお腹が床につくようになる

再チェック

腹臥位で手で床を押しながら体幹を反らします。

→腰の反らしやすさ、つまり感を再チェック

 

腹直筋のストレッチ

投球動作における肩・肘の痛みの原因となりうる腹筋群のイラスト。

腹筋群へのスクリーニングテストで改善がみられた場合は、以下のアプローチを行います。

セルフチェック

腹臥位で手で床を押しながら体幹を反らします。

→腰の反らしやすさ、つまり感をチェック

腹直筋のストレッチ

①腹臥位で腹部にボールを置く

②手を置いている前に体を移動させ、ストレッチを行う

③足を広げた状態で、体を前後に動かし同様にストレッチを行う

再チェック

セルフチェックの腰割りを再度行い、つまり感やお尻の沈みやすさが改善したかを確認

 

腹横筋の賦活化|step1

投球動作における肩・肘の痛みの原因となりうる腹横筋のイラスト

腹横筋へのスクリーニングテストで改善がみられた場合は、以下のアプローチを行います。

セルフチェック

立位で体を後方へ反らし、つまり感、反りやすさをチェック

①ドローイン

①背臥位でボールを脚で挟む

②鼻から息を吸い、口をすぼめ細く長く吐き切る

③ ②の深呼吸を10回行う

※へその下方での腹横筋の収縮とお腹の凹みを感じる

②ドローイントレーニング

①お腹を凹ましたまま、ボールを挟んだももを上げる

② ①の姿勢で前後に20回動かす

③ ①の姿勢で左右に20回動かす

④ ①の姿勢で右回し、左回しを20回行う

※お腹を凹ますドローインのまま行うこと。

→お腹が膨らんでいると表層の腹筋群が収縮しています。

再チェック

セルフチェックを再度行い、つまり感や反らしやすさが改善したかを確認

 

体幹へのアプローチ|step2

step1の腹横筋アプローチにより十分な腹横筋の収縮が獲得できたら、徐々に体幹筋へ負荷を上げていきます。

V字ツイスト腹筋

V字ツイスト腹筋①

①体育座りで大腿でボールを挟み、手にはメディシンボールを持つ

②背筋を伸ばしたまま体を後方へ倒し、足は浮かす

③顔は正面を向いたまま、体幹を回旋させながらメディシンボールを左右に移す

※背筋は伸ばしたまま行うこと

※スピードを上げることで負荷を上げていく

V字ツイスト腹筋②(ペアで行う)

①2人横並びで、V字ツイスト腹筋の②の姿勢をとる

②左右に3回メディシンボールを床につける

③パートナーにメディシンボールを投げる

④キャッチしたパートナーは①〜③を繰り返す

背筋①(ペアで行う)

①骨盤まで台に乗せた状態のうつ伏せになる

②股の間にボールを挟む

③パートナーは足の上に乗り大腿の上部を押さえる

④体を地面と水平になるまで挙げる

⑤両脚固定を20回と片脚のみ固定を左右それぞれ20回行う

※内転筋でボールを挟み、ハムストリングを使って体を起こす意識で行う

※過度に腰椎が反らないように注意

背筋ツイスト腹筋②(ペアで行う)

①背筋①の要領で、体を水平に挙げた姿勢をとる

②姿勢を保ったまま、体を回旋していく

③両脚固定を20回と片脚のみ固定を左右それぞれ20回行う

※内転筋でボールを挟み、ハムストリングを使って体を起こす意識で行う

※過度に腰椎が反らないように注意

 

頚部へのアプローチ

頚部へのスクリーニングテストで改善がみられた場合は、以下のアプローチを行います。

セルフチェック

首を左右に回し、柔軟性(回しやすさ、つまり感)の左右差をチェックします。

頚部周囲筋のストレッチ

①側頭部を対側の手で持ち、体ごと横に倒す

②後頭部を両手で持ち、体ごと前に倒す

③あごに両手の親指を当て、体ごと後ろへ倒す

※それぞれ強く倒しすぎないように注意

※首だけ倒すと、伸ばしすぎや痛みによって過緊張になることがあります

再チェック

セルフチェックを再度行い、首の回りやすさが改善したかを確認

 

肩甲骨の可動域へのアプローチ

肩甲骨機能不全へのスクリーニングテストで改善がみられた場合は、以下のアプローチを行います。

セルフチェック

各レベルのHERTでの痛みや可動域をチェック

肩甲骨の可動域アップエクササイズ①

①両肘を曲げ、鎖骨にふれる

②鎖骨にふれたまま肘を上下に動かす

③鎖骨にふれたまま外回しを行う

※手を鎖骨にふれたまま肘を動かすことで肩甲骨の動きを感じやすくなります。

肩甲骨の可動域アップエクササイズ②

①胸の高さで両肘と両小指をくっつける

②そのまま上に上げていく

③肘が顔の高さまで来たら、手と肘を離す

④体の外側でそれぞれの円を描くように肘を回す

⑤ ①の姿勢に戻し、①〜⑤を繰り返す

肩甲骨の可動域アップエクササイズ③

①顔の高さで両肘と両小指をくっつける

②そのまま下に下げていく

③肘が胸の高さまで来たら、手と肘を離す

④体の外側でそれぞれの円を描くように肘を回す

⑤ ①の姿勢に戻し、①〜⑤を繰り返す

再チェック

再度セルフチェックで痛みや可動域が改善したかを確認

 

肩のインナーマッスルへのアプローチ

肩のインナーマッスルへのスクリーニングテストで改善がみられた場合は、以下のアプローチを行います。

セルフチェック

立位で反対の肩をさわり、柔軟性(左右の張り感や肘の位置)をチェック

棘上筋エクササイズ

①親指は上に向け、ボールを脇に挟む

②力を入れ、脇をしめる

③力を抜き、ボールの反発で元の位置に戻す

④ ①〜③をリズムよく20回繰り返す

棘下筋エクササイズ

①正座または椅子座位で、肩は軽く開いた状態で肘を前方の台に置く

②ボールの上に手を置き、前後に転がす

③肩関節後面にだるさが出るまで続ける

※首から肩にかけて力が入らないように注意

肩甲下筋エクササイズ

①正座または椅子座位で、肩幅の距離で両肘を前方の台に置く

②左右の腕でボールを挟む

③肘は台に固定したままボールをつぶすよう力を入れる

④力を抜き、ボールの反発で元の位置に戻す

※できる範囲で肘の間隔を狭くしていくと効果的

肩のインナーマッスルと肩甲骨運動

①正座または椅子座位で、肩幅の距離で両肘を前方の台に置く

②左右の腕でボールを挟む

③ボールを挟んだ状態で肘を上下させる

※できる範囲で肘の間隔を狭くしていくと効果的

棘下筋(上部)トレーニング

①正座または椅子座位で、肩は軽く開いた状態で投球側の肘を前方の台に置く

②片手でチューブを固定する

③投球側の手の平にチューブをひっかける

④手の平は顔に向けた状態のまま外側に引く

⑤肩関節後面にだるさが出るまで続ける

※首や肩、胸に力が入らないように注意

※チューブは強く握らず、指に軽くひっかける程度で力まない

※過負荷になるとインナーマッスル<アウターマッスルとなるため注意

棘下筋(中部)トレーニング

①正座または椅子座位で、肩幅の距離で両肘を前方の台に置く

②両手の手の平にチューブをひっかける

③手の平は顔に向けた状態のまま外側に開く

④肩関節後面にだるさが出るまで続ける

※首や肩、胸に力が入らないように注意

※チューブは強く握らず、指に軽くひっかける程度で力まない

※過負荷になるとインナーマッスル<アウターマッスルとなるため注意

棘下筋(下部)トレーニング

①壁の横に位置し、投球側の肘を壁につける

②片手でチューブを固定する

③投球側の手にチューブをひっかける

④投球側の手を後方に引く

⑤肩関節後面にだるさが出るまで続ける

⑥肘の位置は3段階、少しずつ後方に変え①〜⑤を同様に行う

※首や肩、胸に力が入らないように注意

※チューブは強く握らず、指に軽くひっかける程度で力まない

※過負荷になるとインナーマッスル<アウターマッスルとなるため注意

肩のインナーマッスルトレーニング③

①正座または椅子座位で、肩幅の距離で両肘を前方の台に置く

②左右の腕でボールを挟む

③肘は台に固定したままボールをつぶすよう力を入れる

④力を抜き、ボールの反発で元の位置に戻す

※できる範囲で肘の間隔を狭くしていくと効果的

再チェック

再度セルフチェックで柔軟性(左右の張り感や肘の位置)を確認

 

おわりに

いかがでしたか?

投球やスローイングにおける肩・肘の痛みの原因として、

「過剰な関節運動」「可動域制限」「体重移動のスムーズにできない」

悪い姿勢

筋肉のアンバランスさ

という流れがあります。

これらの仮説に対して、各部位の筋肉に対してスクリーニングテストを行い、前後で行う各評価法で痛みや関節の動きの効果判定を行います。

効果があれば、今回の各部位の筋肉へのエクササイズやトレーニングを行い、段階的な投球再開を始めることになります。

 

ちなみに「大人」と「子ども」の野球における「肩の痛み」は分けて考える必要があります。

気になる方は以下の記事をご覧ください。

子どもの骨は成長段階で脆弱でもあるため、下記の球数制限など考慮する必要があります。

練習
小学生週3日・2時間以内
中学生週1日以上の休養日
高校生週1日以上の休養日
全力投球数に関する提言
全力投球数1日1週
小学生50球200球
中学生70球350球
高校生100球500球
全力投球数に関する提言

今回の記事が、痛みなく野球をエンジョイするための一助になれば幸いです。

では。