野球における調整力(コーディネーション)のトレーニング〜中垣征一郎氏の著書より

野球の練習といったらキャッチボール、素振り、バッティング、ノック、筋トレなど、様々なトレーニングがあります。

練習を頑張り、パフォーマンスをアップし、試合で活躍したいですよね。

パフォーマンスを発揮するための体力には6つの要素があります。

その中の一つが、コーディネーションと同義である調整力。

筋力や持久力をまとめる「神経系の体力」と言われます。

「調整力」を身につけておかなければ、筋力などが身につけてもパフォーマンスアップにつながらず、怪我につながる可能性が。

特に子どもの頃に発達する神経系の体力、調整力。

今回は、

・プロ野球日本ハムのトレーナー(2004年〜2010年、2013年〜2017年)

・ダルビッシュ有選手の専属トレーナー(2012年)

・MLBのパドレスのトレーナー(2017年〜2018年)

・現オリックス・バファローズ巡回ヘッドコーチ(2019年〜)

と、レジェンド級にトレーナーとしてご活躍中の中垣征一郎氏の唯一の著書「野球における体力トレーニングの基礎理論」から、調整力のトレーニングについて言及されている部分をご紹介します。

調整力(コーディネーション能力)とは

調整力(コーディネーション能力)とは筋力や持久力などが「エネルギー系の体力」と呼ばれるのに対して、「神経系の体力」「サイバネティックス系の体力」などと呼ばれている。

調整力は、一般の人にはなじみの少ない用語であるが、「運動神経がよい・悪い」「器用・不器用」と同義である。

筋力や持久力などが「エネルギー系の体力」と呼ばれるのに対して、「神経系の体力」「サイバネティックス系の体力」などと呼ばれている。

最近では、調整力を指す用語として「コーディネーション能力」もよく用いられている。

 

体力トレーニングと言えばすぐにエネルギー系の体力トレーニングを想起する人が多い。

しかし、調整力トレーニング(コーディネーショントレーニング、動きのトレーニング、動きづくり)をおろそかにすると、せっかく高めたエネルギー系の体力が宝の持ち腐れになることは周知の通りであろう。

 

野球における調整力(コーディネーション能力)の評価法

野球における調整力(コーディネーション能力)の評価法として、敏捷性(ステッピングなど)、平衡性(閉眼片足立ちなど)、巧緻性(ジグザグ走など)があるが、実際は野球の動きの観察で評価している。

調整力を客観的に測定することは至難のことだろう。

一般には、調整力の要因である

・敏捷性(ステッピングなど)

・平衡性(閉眼片足立ちなど)

・巧緻性(ジグザグ走など)

に着目していくつかの測定が行われている。

しかしこれらに優れているからといって様々なスポーツやある特定のスポーツを巧みに行うことができるとは限らないからである。

指導者は、

・投・打・走・跳などの動きが良い

・ポジショニングなどの状況判断が良い

などを観察し、「野球センスがある」「勘がいい」「いい動きをしている」などの言葉を使いながら、調整力の評価を行っている。

 

調整力(コーディネーション能力)に影響する要因

調整力(コーディネーション能力)に影響する要因として、生得的・先天的要因よりも、習得的・後天的要因に大きく影響されているとも考えられる。

調整力の優れた人(運動神経の良い人、器用な人)とはある一つの運動を上手に行う人であろうか、それとも与えられた新しい運動を素早くしかも巧みにできる人、身につけた技術を状況に応じて巧みに修正できる人であろうか。

彼らはいずれも運動神経が良いとか器用であるとか言われる人たちである。

しかし様々な動きの修得や修正に対する潜在的な能力は、後者の方が高いと言えるのではなかろうか。

後者はこれまでの生活において身につけた動きの量(種類)が多く、しかも身につけたそれぞれの動きの質が高い人である。

つまり後者は、質の高い動きのプログラムをたくさん身につけているから、それらのプログラムを動員して新しい動きを素早く、しかも巧みに身につけたり、身につけた技術を場の状況に応じて巧みに修正したりすることができるのであろう。

このように見ると、調整力は生得的・先天的要因よりも、習得的・後天的要因に大きく影響されているとも考えられる。

 

野球における調整力(コーディネーション能力)のトレーニング法

野球における調整力(コーディネーション能力)のトレーニング法としては、指導者はゴールデンエイジと言われる小学生高学年に、悪いクセをつけないようにするために、それぞれの運動の合理的な技術を理解し、それができるように「動きの留意点(着眼点)」をもって1回1回の試技に臨むことが大切である。

動きづくりの基礎になる神経系は子どもの頃に著しく発達する。

子どもの頃は動きの習得が速く、即座の習得が可能であると言われる。

小学校の高学年は動きの習得におけるゴールデンエイジと呼ばれるほどである。

この時機に様々な運動に触れ、それを巧みにできる質のよい動きのプログラムをたくさん身につけることである。

そのプログラムは、自転車操作の技術のように、多くはその後消えることはない。

それだけに、悪いクセをつけないようにするために、それぞれの運動の合理的な技術を理解し、それができるように「動きの留意点(着眼点)」をもって1回1回の試技に臨むことが大切である。

 

上記のことは、調整力トレーニング(動きづくり)のカギである。

調整力の優劣は先天的な素質によって左右されることもあるが、指導者としては後天的な環境、とくに子どもの頃の運動・スポーツ環境によって決まると考えておくことが大切である。

野球においては、様々な運動技能が要求されるので、子どもの頃に様々な運動・スポーツを体験するとともに、そこでは常に良い動きを身につけるように行うことが大切である。

野球選手には運動能力が高い人が多数見られるが、それは彼らの子どもの頃の運動・スポーツ生活に起因するものであろう。

 

野球における調整力(コーディネーション能力)トレーニングと技術・戦術トレーニングとの関係

近年、コーディネーショントレーニングの名のもとに、器用性や協調性などの要求される様々な運動が行われている。

これは、野球で見れば一般的な調整力トレーニングに位置づけられるが、このトレーニングによって野球における様々な技術・戦術が必ずしも上達する訳ではない。

この原因の一つとして、実践的な野球技術との関連を明確にできていない可能性がある。

調整力トレーニング(動きづくり)においては、何かの動きを手がかりにして質の良い動きのプログラムを作っていく。

その動きが最も野球と関係のあるものと言えば、毎日長時間かけて行っている様々な技術・戦術トレーニングの手段である。

技術・戦術トレーニングを(超)専門的調整力トレーニング(野球の動きづくり)として位置づけ、そこに究極の調整力トレーニングがあると見ることが何よりも大切ではなかろうか。

また、野球の技術に直接的に関連するものを専門的調整力トレーニング、間接的に関係あるものを一般的調整力トレーニングととられることも大切ではないか。

 

調整力(コーディネーション能力)トレーニングの留意事項

トレーニングにおいて調整力の向上をねらいとする場合には、以下のようなことに留意するべきである。

①調整力トレーニングに用いる動きと動きの留意点を明確にする

②1日のトレーニングの中での調整力トレーニングの取り入れ方に留意する

③習得過程における実施の手順に留意する

④習得した動きの反復の手順に留意する

⑤発育発達期における調整力トレーニングの取り入れ方に留意する

⑥多くのトレーニングが調整力トレーニングとなりうることに留意する

⑦ ①〜⑥をふまえて野球技術を含めた運動技術の改善を計画的に行う

 

調整力トレーニングに用いる動きと動きの留意点を明確にする

どのような動きを身につけようとしているのか、動きの留意点・着眼点を明確にすることが重要である。

 

1日のトレーニングの中での調整力トレーニングの取り入れ方に留意する

新しい動き、または、まだできない動きを獲得する場合は、疲労感の少ないときに行うのが適切である。

すでに獲得している動きの場合には、疲労している状態などで行うことで、疲労状況に関わらず動きを再現する能力を習得することをねらいとすることも有効である。

 

習得過程における実施の手順に留意する

・簡単な動きから複雑な動きへ

・部分的な動きから全身的な動きへ

・ゆっくりした動きから速い動きへ

など、動きを習得していく過程を明確にすることが大切である。

 

習得した動きの反復の手順に留意する

すでに習得した動きであっても、③の留意事項を踏まえて、再現が容易な動きと難しい動きの結びつきに留意し、定期的に循環して行うことが大切である。

 

発育発達期における調整力トレーニングの取り入れ方に留意する

専門的な動きに偏らず、運動のバリエーションを多く取り入れ、より多くの運動プログラムを学習できる機会を作ることが大切である。

 

多くのトレーニングが調整力トレーニングとなりうることに留意する

技術・戦術トレーニングをはじめ、筋力トレーニングやパワートレーニング、ウォームアップで行う各種の動的ストレッチに至るまで、実に様々なフィールド上でのトレーニングが調整力トレーニングの手段となりうることを意識するべきであろう。

 

①〜⑥をふまえて野球技術を含めた運動技術の改善を計画的に行う

調整力は筋力、パワーや有酸素性持久力・無酸素性持久力、柔軟性のように、必ずしも生理的な適応によって改善されるものではないため、計画的に行われることが見落とされがちである。

しかし、各選手の動きの特徴をとらえて、PDCAサイクルを背景に計画的に進めて行くことが大切である。

 

調整力(コーディネーション能力)についての補足

調整力の優劣を決める指標として、

・時間や空間を実践的な運動の中でとらえ、力の出し方、抜き方を調整する能力

(力の時間的、空間的、強さの調整能力)

・平衡性や巧緻性、敏捷性

などが考えられる。

 

調整力(コーディネーション能力)と年齢

これらを含めた運動センスの有無は生来のものと言われることが多いが、

・幼少期から様々な運動に興味を持たせ、性質の異なる運動を多く経験させること

・上手くなるためにどうすれば良いかを考えながら運動を試す機会を増やすこと

が調整力の向上に大きく影響する。

また、いかなる年代の競技者であっても、運動技術を向上させていくことはパフォーマンスの向上・維持に最も重要な要素である。

成熟するにつれ、競技者は運動センスを意識的にさらに向上させることを怠ってはならない。

 

調整力(コーディネーション能力)と感覚

総合的に調整力を説明することを試みるならば、運動プログラムを個人の固有の感覚の中で構築する能力と言えるのではないだろうか。

意図的であれ、非意図的であれ、一流のスポーツ選手は効率的な動きを引き出すことに長けている。

幼少期から様々な運動の形態を学ぶことで調整力の器を大きくすること、同時に歳を重ねるごとに意識的により効率的な動作へ洗練させていくことが長期に渡って競技パフォーマンスを向上・維持させていくために大切である。

 

調整力(コーディネーション能力)と傷害

一方、動き方の不器用な選手は、傷害に陥りやすいことも周知である。

障害リスクをできる限り回避しながら、より高いパフォーマンスを向上させるために、運動技術の基礎となる調整力について十分に考慮することが必須である。

 

おわりに

最後にまとめます。

調整力とは

・「運動神経がよい・悪い」「器用・不器用」「コーディネーション能力」と同義

・筋力や持久力→「エネルギー系の体力」、調整力→「神経系の体力」

・調整力トレーニングをおろそかにすると、エネルギー系体力を高めても効果低い

・パフォーマンスアップだけでなく傷害予防にも必要

調整力の評価

・敏捷性(ステッピングなど)

・平衡性(閉眼片足立ちなど)

・巧緻性(ジグザグ走など)

・時間や空間を実践的な運動の中でとらえ、力の出し方、抜き方を調整する能力

(力の時間的、空間的、強さの調整能力)

など測定が行われているが、客観的に測定することは難しい。

実際には、

・投・打・走・跳などの動きが良い

・ポジショニングなどの状況判断が良い

などを観察し調整力の評価を行っている

調整力に影響を与える要因

・「様々な動きの修得や修正に対する潜在的な能力」≒「これまでの生活において身につけた動きの量(種類)が多く」+「身につけたそれぞれの動きの質が高い」

・「質の高い動きのプログラムをたくさん身につけている」

→それらのプログラムを動員

→新しい動きを素早く、しかも巧みに身につけたり、場の状況に応じて身につけた技術を巧みに修正することができる

・調整力への影響:生得的・先天的要因<習得的・後天的要因

調整力と年齢

・子どもの頃に動きづくりの基礎になる神経系は著しく発達

→即座に動きの習得が可能

→小学校高学年:ゴールデンエイジ

→様々な運動に触れ、巧みにできる質のよい動きのプログラムを多く身につける

→そのプログラムの多くはその後消えない

・各運動の合理的な技術を理解し、留意点をもって1回1回の試技に臨むこと

・指導者:子どもの頃の運動・スポーツ環境(後天的環境)によって決まると考えておく

・野球は様々な運動技能が要求される

→子どもの頃に様々な運動・スポーツを体験&常に良い動きを身につける

調整力トレーニングと戦術・技術トレーニングとの関係

・様々なコーディネーショントレーニングが行われている

→必ずしも野球の技術・戦術が上達する訳ではない

・原因:実践的な野球技術との関連が不明確

・調整力トレーニング:何かの動きを手がかりにし質の良い動きのプログラムを作る

→最も野球と関係のあるもの:毎日長時間かけ行う様々な技術・戦術トレーニング

・技術・戦術トレーニングを(超)専門的調整力トレーニング&究極の調整力トレーニングと見ること

調整力トレーニングの留意事項

①調整力トレーニングに用いる動きと動きの留意点を明確にする

②1日のトレーニングの中での調整力トレーニングの取り入れ方に留意する

③習得過程における実施の手順に留意する

④習得した動きの反復の手順に留意する

⑤発育発達期における調整力トレーニングの取り入れ方に留意する

⑥多くのトレーニングが調整力トレーニングとなりうることに留意する

⑦ ①〜⑥をふまえて野球技術を含めた運動技術の改善を計画的に行う

いかがでしたか?

子どもの頃から、実践の動きと調整力トレーニングのつながりを意識して、高まっていく筋力や持久力を神経的な動きにのせてパフォーマンスしていく。

そうすれば怪我のリスクを減らしながら各年代で活躍していけそうですね。

私もゴールデンエイジに戻ってトレーニングし直したい…。

 

より深く調整力トレーニングについて知りたい方はこちらをどうぞ。

では。