野球のパフォーマンスに影響を与える要素。
それは「体」だけでなく、「心」の影響も大きいことは多くの方は理解できるのではないでしょうか。
今回は、
と、レジェンド級にトレーナーとしてご活躍中の中垣征一郎氏の唯一の著書「野球における体力トレーニングの基礎理論」から、精神面について言及されている部分をご紹介します。
野球において要求される技能
野球のパフォーマンスを決める運動技能は、
・投球技能(ピッチング能力)
・打撃技能(バッティング能力)
・捕球技能(キャッチング能力)
・送球技能(スローイング能力)
に大別される。
これらの技能は、攻撃と守備に分けて、また守備はポジションに分けてとらえておくと、選手の発掘やトレーニングを進めていく上で役立つ。
打者 | 打撃技能 (長打能力、単打能力、バント能力、特定の方向への打能力など) |
走者 | 走技能 (スプリント能力、走塁能力など) |
投手 | 投球技能 (速投能力、変化球能力、ボールコントロール能力など) 走・捕球・送球技能 (フィールディング能力など) |
捕手 | 捕球技能 (キャッチング能力・ハンドリング能力、ブロッキング能力など) 送球技能 (盗塁阻止能力:速投能力、ボールコントロール能力) 走・捕球・送球技能 (フィールディング能力、ハンドリング能力、速投能力、ボールコントロール能力など) |
内野手 | 走・捕球・送球技能 (フィールディング能力、ハンドリング能力、速投能力、ボールコントロール能力など) |
外野手 | 走・捕球・送球技能 (フィールディング能力、ハンドリング能力、遠投・速投能力、ボールコントロール能力など) |
野球は上の表のそれぞれの技能をある時間にわたり連続して発揮することは少ない。
9イニングの中で間(ま)をとりながら、あるいは局面や場の状況を的確に判断しながら爆発的かつ集中的に発揮することに大きな特徴がある。
ただし、投手とくに完投型の投手においては1試合を投げ続ける能力が要求され、野手においても1試合を守り続ける能力が要求される。
技術と技能の違いとして、技術は「科学的裏付けを持つ方法・手段で、表現できる普遍的なもの」であり、技能は「個人に属する能力で、体験や経験に基づくカンやコツ、感性といった言葉で表現しがたいものを含む実際的・実践的なもの」としてある。(森1996)
野球において優劣を決める要因|精神面
競技力(試合パフォーマンス)は、昔から「心技体の積(かけ算)」によって決まると言われている。
野球における運動技能の優劣も、
運動技能=技術力(技)×体力(体)×精神力(心)
として「心技体の積」といてとらえておくこともできる。
しかし、攻撃の技能と守備の技能を比べてみればわかるように、運動技能の違いによって要求される心技体の中身と重要度は大きく異なってくる。
また同じ投球技能でも、
・投げ方
・イニング
・走者を背負っている
などの状況によって、そこで要求される心技体の中身と重要度は大きく異なっている。
したがって、野球におけるそれぞれの技能について、技術面、体力面、心理面から詳細に分析しておくことが重要になる。
野球において優劣を決める要因、心技体と知の関係
様々な運動に対する技術、体力、精神力の関わり方については、根底に精神的要素(心)があり、その上に身体的要素(体)、さらに技術・戦術的要素(技)が位置していると説明されることが多い。
心技体はそれぞれ密接に関わり合いながらパフォーマンスを支えている。
高度に訓練された競技者のパフォーマンスを支える心技体に知力を加えて考えることも可能だろう。
技術は体力的な特性を背景に身につけられることが多いが、例えば内野手のハンドワークなどのように、体力そのものとの関係が大きくない場合もある。
戦術は、個人の体力や技能を背景に組まれることが多いが、アイデアやひらめき一つで生まれる場合もある。
成熟した競技者ほど心技体と知は強く関わり合っていると考えられる。
野球などスポーツにおける精神力と知力
野球選手にとって必要な精神力と知力には、おもに以下のようなものが考えられる。
①緊迫した場面においても自らの持つ技術・体力を発揮する力
②長い試合の中で集中力を適切にコントロールし継続していく力
③日々のトレーニングを重ねていくための意志力
④目標に向かって課題を分析する能力
⑤課題の達成に向かって思考し、トレーニング手段や計画を作成するために選択、判断、創造を行う能力
⑥戦術を分析し、選択、判断、創造を行う能力
③日々のトレーニングを重ねていくための意志力
精神的なトレーニングは、野球の技能を身につけるためのすべての場面において行われている。
技術と体力の向上のために継続的にトレーニングを積み重ねていくには精神力が支えとなる。
日々の積み重ね、その準備のための日常での取り組みに至るまで、すべてが精神的なトレーニングの場となる。
①緊迫した場面においても自らの持つ技術・体力を発揮する力、②長い試合の中で集中力を適切にコントロールし継続していく力
試合の緊迫した場面で技能を発揮する実体験そのものも精神的なトレーニングの場であり、技能を発揮できるかどうかは精神力に強く支えられている。
精神力は試合のような厳しい状況で、冷静に自分自身の能力を発揮するための集中力の源であり、日々のトレーニングをコツコツと根気よく積み重ねる源でもある。
目的に向かって根気よく積み重ねた結果として獲得された技術と体力には根拠があり、これが試合の厳しい競争下で選手個人やチームに自信を持たせ、技能として発揮することを可能にするのではないか。
④目標に向かって課題を分析する能力
目的を明確にし、実践知や科学知からなる根拠をもとに道筋を立てて日々のトレーニングを積み重ねていく作業は、より多くの選手を積極的なトレーニングへと導き、不確定な未来の成果へと向かう動機づけを可能にする。
このことが根気を生み、精神的なトレーニングを促す。
精神力は、スポーツ実践と離れてテクニカルに強化できる可能性もあるが、同時に日々のトレーニングや試合、これらにまつわる日常の取り組みを通じた積み重ねによってトレーニングされるのではないか。
⑥戦術を分析し、選択、判断、創造を行う能力
スポーツ競技において知力はどのように働いているだろうか。
試合の中ではおもに戦術的な能力として発揮される。
自分自身と相手との能力を分析した上で、どのような戦術が試合を優位に進めていくために適切か判断する能力である。
戦術は、チームのなかでユニットとして行われる場合や個人で行われる場合があるが、戦術を実行する際の状況判断能力も戦術的な知力の一つと言える。
⑤課題の達成に向かって思考し、トレーニング手段や計画を作成するために選択、判断、創造を行う能力
また、前述したように合理的に目標に向かってトレーニングを進めていくためには、根拠に基づいて効果的に日々のトレーニングを進めていかなければならない。
正しい手段を選択したり、何が合理的かを判断したり、新たな手段を創造するのは知力である。
目標を明確にし、達成に向かって根拠を持ち、具体的な目的を持って一つ一つのトレーニングを行う取り組みの背景の一つとなっているのは知力であると言えよう。
おわりに
いかがでしたか?
ひとえに野球といってもポジションによって求められる技能・能力がかわります。
またそれは、連続的ではなく間(ま)があり、
・ストライクカウント
・アウトカウント
・ランナーの有無
・イニング
・点差
など試合展開によっても柔軟な変化が求められます。
そのため、体力だけではない精神面や知力の必要性と、その鍛錬方法が言及されています。
真の一流野球選手は、「野球などスポーツにおける精神力と知力」の項で言及されている、①〜⑥は身につけているように感じます。
大谷選手は、まさにそんな感じですね!
今回の記事が精神面も充実した野球やスポーツのパフォーマンスに一助になれば幸いです。
では。
・プロ野球日本ハムのトレーナー(2004年〜2010年、2013年〜2017年)
・ダルビッシュ有選手の専属トレーナー(2012年)
・MLBのパドレスのトレーナー(2017年〜2018年)
・現オリックス・バファローズ巡回ヘッドコーチ(2019年〜)