肉離れの治療とリハビリテーション〜スポーツ医学検定より〜

スポーツには筋肉のトラブルがつきものです。

今回はスポーツ医学検定公式テキスト1級より「肉離れ」についてです。

単なる筋肉痛は全く異なります。

肉離れは軽症から重症まであり、診断基準が変更されており、治癒までの期間も10倍近く異なります。

海外の名門チーム、サッカー日本代表で活躍している冨安健洋選手も受傷し、再発を繰り返しています。

適切な治療とリハビリテーションによる復帰ができるよう、ぜひご一読ください。

肉離れとは

肉離れの治療とリハビリテーション〜スポーツ医学検定より〜

肉離れとは、スポーツ活動などで筋肉が伸長した状態で収縮が生じた際、筋肉に損傷を来すものである。

筋肉と腱の移行部や、腱の部分での損傷のケースも含めて扱われる。

受傷時、筋肉が離れたように感じることから肉離れと呼ばれる。

打撲など直達外力で生じるものは筋挫傷と呼ばれ、肉離れとは異なる。

 

肉離れとスポーツ

肉離れはあらゆる筋肉に、またあらゆるスポーツで発生するが、スポーツ種目によって肉離れを起こしやすい部位に特徴がある。

陸上競技ではハムストリングス、特に大腿二頭筋の肉離れが多い。

ダッシュやランニング中にハムストリングスが遠心性収縮を起こして生じると考えられる。

サッカーではハムストリングスの他に、キック動作に関係する大腿四頭筋や骨盤周囲筋(内閉鎖筋や外閉鎖筋)の受傷が多い。

ラグビーでは下腿三頭筋の受傷も多い。

一方、柔道やレスリングなどの格闘技では大胸筋などが肉離れを起こす場合もある。

また野球・テニス・体操などでは腹筋群の肉離れも見られる。

 

肉離れの診断と分類

肉離れは、受傷機転の確認、圧痛部位、筋肉をストレッチさせた時・収縮させた時の痛みの有無などで判断される。

直接打撲して受傷したものは筋挫傷である。

画像ではMRI検査や超音波検査で診断される。

X線検査では筋肉の損傷を評価できないが、筋肉が骨に付着する部位での剥離骨折の鑑別のために行われることもある。

かつて肉離れは、

・痛みも軽度でストレッチ痛なく自動運動可能な1度

・ストレッチ痛があり自動運動の制限がある2度

・痛みが強くストレッチも自動運動も不可能な3度

と分類された。

現在はMRI検査による受傷部位の病態把握が進み、

・筋繊維部あるいは血管損傷のみのⅠ型

・筋腱移行部損傷(特に腱膜損傷)のⅡ型

・腱性部(付着部)の断裂であるⅢ型

という分類が、競技復帰時期の目安としても有用であり、広く用いられている。

超音波検査でも筋束の走行変化や血腫を確認できる。

なお、筋腱移行部損傷の中でも、筋内腱の損傷がない場合はやや軽症であり、筋内腱の損傷の程度も含めた重症度分類も提唱されている。

 

肉離れの治療

基本的には保存療法が行われるが、損傷部位と程度が治療やスポーツ復帰までの期間に影響する。

Type出血腱・腱膜の損傷復帰の見込み
ありなし2週以内
ありあり6〜8週
腱断裂または付着部剥離20週(手術)

筋肉、筋腱移行部、腱ではそれぞれ筋収縮時の加わる力が異なり、修復能力にも差があるためである。

腱膜損傷を伴うⅡ型では再受傷のリスクも高いため、再受傷予防のアスレチックリハビリテーションは非常に重要である。

Ⅲ型の腱断裂または付着部剥離の場合、手術が選択肢になる。

早期復帰を目指すだけでなく、再受傷をいかに防止するかかが鍵である。

損傷部位の回復を促す新たな治療も開発されており、

・特殊な装置の中で高い濃度の酸素を高気圧下で吸入する高気圧酸素治療

・自分の血液から組織の治癒を促進する成分を取り出して損傷部位に注射するPRP(多血小板血漿)治療

の発展も期待される。

 

ハムストリングス肉離れしやすい選手の特徴

ハムストリングス肉離れは、陸上競技やラグビーなどで、

・ダッシュ

・ストップ

・ジャンプ着地

した際にハムストリングスが急激に活動するとともに伸張されて発生する。

ダンスやフィギアスケートなどで膝を伸ばしたまま股関節を急激に屈曲した際にも発生しやすい。

受傷の原因となりやすい身体機能の特徴としては、

・姿勢の不良

・柔軟性不足

・腰椎、骨盤の安定性不足

などが挙げられる。

 

肉離れのアスレチックリハビリテーション

2〜4日間の急性炎症期では安静とアイシングにより痛みや炎症の緩和に努める。

その後、痛みや炎症が軽減し、損傷部位修復されていく時期では座位や立位での姿勢修正エクササイズを行いながら、腸腰筋などのストレッチを行う。

その後、痛みや炎症が消失した後に、腰椎・骨盤のスタビライゼーションエクササイズや、ハムストリングスのストレッチおよび筋力トレーニングを段階的に行う。

組織の修復が完了した後に、走行、ストップ、着地中の姿勢不良の修正に向けたエクササイズを行う。

 

肉離れの再発予防のポイント

実際のスポーツ動作、特に受傷動作は怖さ、痛み、スムースさを確認しながら強度を段階的に上げながら練習する。

復帰後も再発を予防するためにエクササイズは継続し、オフシーズン中も適切な姿勢、柔軟性、体重を維持する。

大腿後面の弾性テーピングの使用も検討する。

受傷につながる姿勢や身体機能の問題や、優先して行うべきアスリハは選手個々で異なる。

そのため、理学療法士やトレーナーなどに評価してもらい、アスリハの目的や注意点について理解しておく。

 

おわりに

最後にまとめます。

肉離れの部位とスポーツ

・ハムストリングス→陸上競技、サッカー

・大腿四頭筋や骨盤周囲筋(内閉鎖筋や外閉鎖筋)→サッカー

・ラグビー→下腿三頭筋

・柔道やレスリングなど格闘技→大胸筋

・野球・テニス・体操など→腹筋群

かつての分類

1度→痛みは軽度。ストレッチ痛なく自動運動可能

2度→ストレッチ痛あり。自動運動制限あり

3度→痛み強い。ストレッチも自動運動も不可能

MRI検査での分類

Ⅰ型→筋繊維部あるいは血管損傷のみ

Ⅱ型→筋腱移行部損傷(特に腱膜損傷)

Ⅲ型→腱性部(付着部)の断裂

治療は保存療法が基本。復帰までの見込み期間は以下。

Type出血腱・腱膜の損傷復帰の見込み
ありなし2週以内
ありあり6〜8週
腱断裂または付着部剥離20週(手術)

Ⅱ型では再受傷のリスクも高い。

そのため、再受傷予防のアスレチックリハビリテーションは非常に重要。

ハムストリングス受傷の原因となりやすい動作

・ダッシュ

・ストップ

・ジャンプ着地

ハムストリングス受傷の原因となりやすい身体機能の特徴

・姿勢の不良

・柔軟性不足

・腰椎、骨盤の安定性不足

ハムストリングスのアスリハ

①2〜4日間の急性炎症期→安静とアイシング

②痛みと炎症が軽減→姿勢修正エクササイズ(座位や立位)、腸腰筋ストレッチ

③痛みや炎症が消失→腰椎骨盤スタビライゼーションエクササイズ、ハムストリングスのストレッチおよび筋力トレーニング

④組織の修復完了→走行、ストップ、着地中の姿勢不良修正エクササイズ

再発予防のポイント

①以下確認しながら、スポーツ動作(特に受傷動作)の強度を段階的に上げる

・怖さ

・痛み

・スムースさ

②復帰後もエクサイズは継続。オフシーズン中も適切な姿勢、柔軟性、体重を維持

以上、

スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]

の「肉離れ」と「部位別のアスリハ 大腿」からの引用でした。

なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。

今回の記事で筋肉のトラブルに対する適切な対処ができ、親子の健全で楽しいスポーツにつながれば幸いです。

では。