野球での肩の痛み。
選手だけでなく、子どもから訴えられる親、指導者も多いのではないでしょうか?
同じ野球での肩の痛みといっても、「成長期」の子どもと「大人」とでは障害の質と復帰までの流れが異なります。
その違いを知っているか否か。
それが、痛みから解放され再び楽しく野球をプレイできるかどうかの岐路になるかも。
今回、成長期の投球障害肩についてスポーツ医学検定公式テキストをもとに述べていきます。
成長期の投球障害肩のメカニズム
成長期の投球障害肩で器質的損傷があることはまれであり、身体機能やフォームに異常を認めることが多い。
成長期の骨には骨端線があり、筋腱・靭帯の柔軟性に富んでいることが特徴である。
相対的に骨の方が力学的に脆弱なため、器質的損傷が起こる場合は骨端線に生じやすい。
肩関節では上腕骨近位骨端線に力学的ストレスがかかりやすく、同部の圧痛を生じる。
X線検査では、骨端線部の透瞭部の拡大像として認識され、1953年に米国でリトルリーガーズショルダーとして報告された。
リトルリーガーズショルダーという呼称がついているが、硬式や軟式に関係なく生じる。
成長期の投球障害肩の受傷機転・予防
投球動作の繰り返しにより肩に負荷が蓄積され生じる。
一方、遠投や全力投球など「特定の一球」で痛みを生じる場合もある。
リトルリーガーズショルダーはスポーツ障害として、深刻な予後になることはない。
しかし、
に対するアラームだと認識することが大切であり、予防のカギもそれらの改善にある。
・野球開始時期
・ポジションの変遷
・チームの練習時間
など、選手個々の野球を取り巻く環境は異なるため、個々に応じた対応が必要である。
痛覚を冷覚で鈍麻させるアイシングは推奨できない。
成長期の投球障害肩の症状
肩外側から後方の骨端線の圧痛を認めるケースが多い。
痛みのある上腕に外観上の明らかな変形や腫脹はないが、腕神経叢から烏口突起(小胸筋タイトネスのために肩甲骨が前傾している)に圧痛を認める場合も珍しくない。
肩甲骨は左右非対称となることもあり、典型的な場合は安静時、もしくは肩抵抗下での外転時に投球側の肩甲骨の下制・外転が見られることもある。
十分に上腕骨−肩甲骨ユニットが挙上できていない肘下がりのフォームから無理に肩水平伸展し、投球する選手が受傷することが多い。
通常バッティングで痛みは出ないが、損傷が進行した場合は痛みが出ることがある。
成長期の投球障害肩の検査・診断
X線検査では、正面像と軸写像で骨端線部の透瞭部の拡大像を認めるが、年齢差・個人差があるため非投球側のX線検査との比較が必須である。
骨端線の拡大の状態により、
Ⅰ型:骨端線の部分的な拡大
Ⅱ型:骨端線全域の拡大
Ⅲ型:すべりを伴うもの
と分類されており、ほとんどがⅠ型・Ⅱ型である。
検診の超音波検査で発見されることもあり、急性期は血流量の増加が認められることもある。
肩周囲の腱や靭帯に損傷があることは少ないため、通常MRI検査やCT検査は必要ない。
成長期の投球障害肩の治療
1〜2ヶ月の投球禁止により局所の圧痛は消失することが多い。
バッティングは通常禁止しないでもよいが、重症例では2〜3週のバッティング禁止期間を要することもある。
X線検査で認めた骨端線拡大像は時間経過とともに改善するが、通常は症状の改善より遅れて改善を認める。
圧痛が消失したことなどを確認後、投球を再開できる。
X線検査で左右の骨端線の状態が完全に一致するまで待つ必要はなく、また撮影も1〜2ヶ月に1回の確認でよい。
成長期の投球障害肩の復帰の流れ
投球プログラムを指導する際、フォームを修正するかどうかは議論のあるところだが、故障につながるフォームの欠点は修正する。
シャドーピッチングやネットスローで投球フォームを修正しても、投球の距離が長くなると再度痛みが出現する選手もいる。
そのため、最初の1ヶ月は10〜15mで70%程度の強度のキャッチボールを継続するといった配慮も必要である。
塁間から塁間対角線での投球が可能になる約2ヶ月後に全体練習と試合に復帰する。
肩甲帯機能の維持、特に柔軟性は重要である。
1995年に日本臨床スポーツ医学会で提唱された「青少年の野球障害に対する提言」では、全力投球数について、
・小学生は1週間で200球以内
・中学生は350球以内
が目安だが、本提言を知っている指導者は多いとは言えない。
また、投手と捕手の兼任は投球数の増加から避けるように指導する。
練習 | |
小学生 | 週3日・2時間以内 |
中学生 | 週1日以上の休養日 |
高校生 | 週1日以上の休養日 |
全力投球数 | 1日 | 1週 |
小学生 | 50球 | 200球 |
中学生 | 70球 | 350球 |
高校生 | 100球 | 500球 |
全日本軟式野球連盟などの団体では、成長期の選手の投球における過度の負担を避けるため、実際に投球数や投球イニングに制限を設けている。
おわりに
最後にまとめます。
・骨やそのまわりの変形や腫れがあることはまれ
→身体機能やフォームの異常が多い
・成長期の骨→①骨端線がある②筋腱・靭帯の柔軟性に富む
→相対的に骨の方が力学的に脆弱
→器質的損傷が起こる場合は骨端線に生じやすい
・肩関節では上腕骨近位骨端線に力学的ストレスがかかりやすい
→同部の圧痛(+)
・硬式や軟式に関係なく生じる
・投球動作の繰り返し
→肩に負荷が蓄積され生じる
・遠投や全力投球など「特定の一球」で痛みを生じる場合も
・スポーツ障害として深刻な予後になることはない
・野球の技術
・練習量
・習慣
に対するアラームだと認識することが大切
→それらの改善が予防のカギ
・野球開始時期
・ポジションの変遷
・チームの練習時間
など、選手個々の野球を取り巻く環境は異なる
→個々に応じた対応が必要
・アイシングは推奨されない
・肩の外側〜後方の骨端線の圧痛(+)
・外観上の明らかな変形や腫脹はない
・腕神経叢から烏口突起に圧痛を認める場合も
・肩甲骨は左右非対称となることも
・典型的な場合は安静時or肩抵抗下での外転時
→投球側の肩甲骨の下制・外転(+)
・十分に上腕骨−肩甲骨ユニットが挙上(−)
→肘下がりのフォーム
→無理に肩水平伸展し投球
→受傷
・通常バッティングでの痛み(−)
→損傷が進行した場合は痛みが出ることも
・X線検査:正面像と軸写像で骨端線部の透瞭部の拡大像(+)
→年齢差・個人差(+)
→非投球側との比較が必須
Ⅰ型:骨端線の部分的な拡大
Ⅱ型:骨端線全域の拡大
Ⅲ型:すべりを伴うもの
→ほとんどがⅠ型・Ⅱ型
・検診の超音波検査で発見されることも
→急性期は血流量増加(+)
・肩周囲の腱や靭帯に損傷があることは少ない
→通常MRI検査やCT検査は不要
・1〜2ヶ月の投球禁止→局所の圧痛は消失
・バッティングは通常禁止しないでもよい
→重症例は2〜3週のバッティング禁止期間を要することも
・圧痛の消失を確認後、投球再開
・X線検査上の骨端線拡大像は時間経過とともに改善
・通常は症状の改善より遅れて改善
→X線検査で左右の骨端線が完全に一致するまで待つ必要ない
・撮影も1〜2ヶ月に1回の確認でよい
・故障につながるフォームの欠点は修正
・シャドーピッチングやネットスローで投球フォームを修正
→投球の距離が長くなると再度痛みが出現する選手も
→最初の1ヶ月は10〜15mで70%程度の強度のキャッチボールを継続
・約2ヶ月後に塁間から塁間対角線での投球が可能
→全体練習と試合に復帰する。
・肩甲帯機能の維持、特に柔軟性は重要
・1995年に日本臨床スポーツ医学会で提唱された「青少年の野球障害に対する提言」では、
・小学生は1週間で200球以内
・中学生は350球以内
が目安とされた。
・本提言を知っている指導者は多いとは言えない
・投手と捕手の兼任は投球数の増加から避けるように指導する
練習 | |
小学生 | 週3日・2時間以内 |
中学生 | 週1日以上の休養日 |
高校生 | 週1日以上の休養日 |
全力投球数 | 1日 | 1週 |
小学生 | 50球 | 200球 |
中学生 | 70球 | 350球 |
高校生 | 100球 | 500球 |
以上、
スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]の「投球障害肩(成長期)」からの引用でした。
なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。
読者の親子で健康で楽しいスポーツの一助になれば幸いです。
では。
・野球の技術
・練習量
・習慣