走る、蹴る、跳ねる、踊る。
それらスポーツの動作には股関節の動きが必須です。
骨盤と大腿骨から構成される股関節には、靭帯や小さな筋肉から大きな筋肉などがまたいでいます。
それらにより、大きな可動域と強いパワーが生み出されます。
しかし使う頻度が高い分、痛みといったトラブルがつきものです。
単なる痛みと思っていると、その原因は骨にあったりするかもしれません。
今回はスポーツ医学検定公式テキストをもとに、スポーツにおける股関節や骨盤の痛みで考えられる怪我について述べていきます。
スポーツにおける骨盤・股関節の痛みで考えられる怪我〜大腿骨寛骨臼インピジメント(FAI)〜
大腿骨寛骨臼インピジメントはFAI(Famoroacetabular Impingement)と呼ばれる。
股関節の軽度な骨変形により、寛骨臼と大腿骨の間で衝突を来すことで鼠径部痛を生じる。
画像検査による診断が重要である。
治療はリハビリテーションが基本で、改善がない場合、関節鏡による手術治療を考慮する。
大腿骨寛骨臼インピジメント(FAI)の受傷機転・予防
発症の機序は以下。
きっかけとなる動作やプレーを指摘できることは少ない。
・繰り返しの股関節の深屈曲を要するアメリカンフットボールやサッカー等のスポーツ
・股関節の大きい可動域を必要とする新体操やクラシックバレー等
で発生頻度が高い。
脊椎や股関節周囲筋の柔軟性の獲得が予防に有効である。
大腿骨寛骨臼インピジメント(FAI)の症状・検査・診断
長時間座っていられない、車の乗り降りで痛みが出るといった症状が特徴である。
股関節屈曲・内転・内旋させたときに再現痛がみられる前方インピジメントテストが診断に有効である。
画像はX線検査を2方向撮影し、特徴的な変形(寛骨臼側:Pincer変形、大腿骨側:Cam変形)をとらえることが重要である。
さらに、MRI検査にて股関節唇損傷や軟骨損傷、滑膜炎の有無を診断する。
大腿骨寛骨臼インピジメント(FAI)の治療・復帰の流れ
寛骨臼と大腿骨が衝突する動作やプレーを確認し、まずその動作を休止する。
加えて、股関節や体幹の柔軟性および安定性を高めるアスレチックリハビリテーションを併用する。
おおよそ3カ月間の保存療法で改善を認めない場合は、手術を考慮する。
現在、関節鏡下視下での治療が主流となっている。
手術後もアスレチックリハビリテーションが重要であり、競技復帰までおおよそ3~4カ月を要する。
スポーツにおける骨盤・股関節の痛みで考えられる怪我〜グロインペイン症候群〜
原則的に明らかな器質的疾患・損傷がなく、運動時に鼠径部痛周辺に様々な痛みを生じる症候群である。
画像検査による鑑別診断の上で診断されるべきである。
リハビリテーションによる保存療法が基本となる。
グロインペインの受傷機転・予防
サッカー選手が約70%と圧倒的に多い。
以前は鼠径管後壁の脆弱化によって生じると考えられ、スポーツヘルニアと呼ばれていた。
しかし現在では、明らかな器質的な異常なく体幹から股関節周辺の筋力、筋緊張のバランスが崩れた結果、鼠径部周辺に痛みを生じる症候群とされている。
股関節周囲、体幹筋の柔軟性と筋力をバランスよく獲得しておくことが重要である。
グロインペインの症状・検査・診断
上肢から体幹の動きを連動して反対の下肢をスイングさせるcross-motionを行わせ、協調した動きが得られていない場合は本症候群が疑われる。
器質的疾患がないことが本症候群診断の前提であり、画像検査による鑑別診断を十分になされた上で診断されるべきである。
恥骨下枝疲労骨折や筋損傷、真性鼠径ヘルニアなどとも鑑別する必要がある。
グロインペインの治療・復帰の流れ
アスレチックリハビリテーションによる保存療法が基本となる。
股関節周囲の筋緊張、拘縮を緩和し、筋の柔軟性を獲得しながらバランスよく筋力トレーニングを行う。
股関節の可動域が改善し、外転・伸展筋力の改善が得られればランニングやキックを開始する。
2~3カ月のリハビリテーションで多くの選手が復帰可能である。
スポーツにおける骨盤・股関節の痛みで考えられる怪我〜骨盤裂離骨折〜
体幹と下肢の中継となる骨盤には数多くの筋肉の起始部(付着部)が存在する。
成長期では筋付着部の骨が未成熟であり、外傷などによる過度の筋緊張によって、剥離骨折を生じることがある。
原則的に固定は行わず、安静位で免荷歩行を指導し、骨癒合の状況をみてスポーツ復帰を許可する。
骨盤裂離骨折の受傷機転・予防
陸上、サッカー、野球等で発生が多い。
13~16歳の男子に起こりやすい。
成長期では筋付着部の骨が未成熟であり、外傷などによる過度の筋緊張によって生じる。
ボールを蹴った時やジャンプ時、ダッシュ中に突然痛みが生じ、歩行不能になったり転倒したりする。
股関節周囲筋の柔軟性を獲得しておくことが予防に重要である。
骨盤裂離骨折の症状・検査・診断
受傷部位としては、上前腸骨棘、下前腸骨棘、坐骨結節の順で多い。
診断は、
・それぞれの受傷部位の圧痛
・付着している筋(縫工筋、大腿直筋、ハムストリングスなど)の収縮時痛
を確認することが重要である。
基本的にはX線検査で容易に診断可能であるが、斜位像でのみ骨折が確認できる場合もあるので注意が必要である。
骨盤裂離骨折の治療・復帰の流れ
まれに骨片が大きい場合や転位が大きい場合に手術が選択されることがあるが、原則として保存療法が選択される。
ギブス固定は行われず、安静位での松葉杖を用いた免荷歩行を4~6週間行う。
その間はX線検査を定期的に行い、骨癒合状態を確認する。
最終的なスポーツ復帰には8~12週を要することが多い。
スポーツ復帰後も股関節周囲筋の柔軟性を獲得させ、再発を予防することが重要である。
おわりに
最後にまとめます。
痛みの部位:鼠径部
原因:骨変形→骨盤と大腿骨の衝突→軟骨や関節唇の損傷
症状:長時間座位困難、車の乗り降りで痛み
起きやすいスポーツ:サッカー、アメフト、新体操、バレエ
痛みの部位:鼠径部
原因:器質的な異常はない&股関節、体幹の柔軟性と筋力のバランス低下
起きやすいスポーツ:サッカー
痛みの部位:上前腸骨棘、下前腸骨棘、坐骨結節
原因:成長期の未熟な骨が、筋肉の過緊張によって剥離
症状:蹴る、ジャンプ、ダッシュ中の突然の痛み、歩行不能や転倒
起きやすいスポーツ:陸上、サッカー、野球など
以上、
スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]の「股関節・骨盤」からの引用でした。
なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。
スポーツのパフォーマンスアップに欠かせない股関節。
そのため、トレーニング後に筋性疲労による痛みも出やすい場所でもあります。
単なる筋性疲労の痛みなのか、今回登場している怪我の痛みなのかの知識の有無。
それがお子さん含めて、健全で楽しいスポーツへの分かれ道になるかもしれません。
では。
股関節の軽度な骨変形
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股関節運動中に寛骨臼(骨盤)と大腿骨の間で衝突(インピジメント)
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股関節唇損傷や軟骨の損傷
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鼠径部(股関節)痛