多くのスポーツにおいて、膝は大きな役割を果たしています。
その分、怪我が多いのが実情です。
10代で名門アーセナルに引き抜かれ、活躍し、将来を嘱望された宮市亮選手も負傷しています。
今回はその前十字靭帯損傷について、スポーツ医学検定公式テキストをもとにご紹介していきます。
前十字靭帯損傷について
脛骨の前方安定性および回旋安定性に寄与している前十字靭帯は、切り返し動作やジャンプ動作で非接触性に損傷することが多い。
一度損傷すると自然治癒は期待しづらい。
膝の亜脱臼である膝くずれは、スポーツ継続を困難にするだけでなく、半月板や軟骨の損傷を生じ悪化させる。
そのため、スポーツの継続には前十字靭帯を再建する手術が勧められる。
通常、競技復帰には術後8~12カ月を要する。
手術後の再受傷も多いため、術後のリハビリテーションは極めて重要である。
前十字靭帯の受傷機転・予防
バスケットボール、サッカー、バレーボール、バドミントンなど、
の多いスポーツに受傷が多く、非接触性に受傷することが多い。
受傷時、足部が固定され後方重心となり、膝関節外反、下腿内旋で受傷することが近年の研究で明らかにされていきた。
また、膝関節の外反位でのジャンプ着地動作が危険動作とされる。
受傷時は瞬間的なものであるため、完全な予防は難しいが、体幹や股関節、足関節といった膝関節以外のトレーニングも重要であり、様々な予防プログラムが提唱されている。
前十字靭帯損傷は女性に多い。
股関節内旋可動域が大きく、ジャンプ着地時に膝関節が外反しやすいことなども一因と考えられる。
前十字靭帯損傷の症状
受傷直後は、痛みのためプレー続行が困難となり、通常歩行も困難となる。
また靭帯損傷時の出血により膝関節は腫れることが多い。
まれに症状が乏しく、受傷機転を覚えていない場合もある。
通常、急性期を過ぎれば、腫れの改善、可動域の改善に伴い、日常生活に不自由はなくなる。
しかし、関節内靱帯である前十字靭帯は自然治癒が期待しづらく、膝関節が不安定な状態で運動に復帰すると切り返しやジャンプ動作などで膝くずれを再び起こすことになる。
それでもプレーを継続すると半月板損傷が進行し、断裂した半月板が膝に挟まりロッキングといった膝が動かない状態になることもある。
前十字靭帯損傷の検査・診断
受傷現場でも徒手的に前方引き出しテストやLachman(ラックマン)テストを行うことで、不安定性の確認が可能だが、手技には習熟を要する。
回旋不安定性を評価するにはpivot-shift testやN-testが行われる。
診断にMRI検査が必須だが、前十字靭帯損傷の脛骨付着部での剥離骨折が生じることもあるため、X線検査も必要である。
回旋制動性に寄与する外側構成体の剥離骨折を認めることもある。
また、脛骨に前方ストレスをかけた状態でのX線検査では患側だけ脛骨の前方亜脱臼が認められる。
MRI検査では、前十字靭帯が正常でも変化があるように描出されることや、断裂していても一部つながっている繊維のため正常にみえることがあり、複合的な判断が必要なこともある。
前十字靭帯の他に合併する半月板損傷や軟骨損傷、他の靭帯の状態を確認することも必要である。
受傷時に生じた大腿骨外側顆と脛骨外側が衝突した際の骨挫傷を認めることもあり、診断の補助になる。
成長期では、前十字靭帯の脛骨側の付着部である顆間隆起での骨折を生じることがある。
前十字靭帯損傷の治療・復帰の流れ
断裂形態によっては保存的に治癒するケースや、断裂したままでも膝くずれを起こさずにスポーツ復帰するケースもあるが、それらの可能性は低い。
切り返し動作やジャンプ動作を必要とするスポーツに元のパフォーマンスで復帰するためには、基本的には手術が必要となる。
手術は関節鏡を用いて自分の腱を用いた再建術が行われ、大腿骨、脛骨に骨孔を作成し、移植腱を用いて金属で固定する。
移植腱は主にハムストリング腱か骨付き膝蓋腱が用いられるが、競技特性などの状況に応じて主治医によって選択される。
いずれの移植腱や固定方法でも移植腱が骨に固着し、ある程度成熟しないと強度が出ないため復帰には長い時間がかかる。
半月板損傷を合併していれば同時に縫合術や部分切除術を行う。
術後3ヶ月からジョギングを開始し、術後8ヶ月から1年をかけて競技復帰となる。
その間も筋力トレーニングや競技に応じたアジリティトレーニングなどのアスレチックリハビリテーションが重要となる。
また術後、反対側の前十字靭帯を損傷する対側受傷や移植靭帯の再断裂も多いため、再受傷予防も必要である。
再受傷は復帰直後である術後1年の付近に1つのピークがあるが、その後もリスクはあるため、継続して再受傷予防のトレーニングが必要である。
復帰まで長期間を要するものの、近年手術後のスポーツ復帰率は高くなっており、スポーツを断念しなければならない外傷ではなくなった。
腱を採取するとその筋の筋力は弱くなり、元と同程度に筋力が回復するには少なくと1年近くを要する。
膝蓋腱を採取した場合、膝前面痛が残存することがある。
おわりに
最後にまとめます。
・ジャンプの着地、切り返し動作の多いスポーツで、非接触性に受傷が多い。
・足部固定+後方重心
→膝関節外反・下腿内旋→受傷
・膝関節の外反位でのジャンプ着地動作→危険動作
(股関節内旋可動域が大きく、ジャンプ着地時に膝関節が外反しやすい女性に多い)
・体幹や股関節、足関節といった膝関節以外のトレーニングも重要
・受傷直後
→痛みのためプレー続行、通常歩行も困難、出血により膝関節の腫れ
・急性期を過ぎると、腫れの改善、可動域の改善
→日常生活に不自由なし
・しかし、関節内靱帯のため自然治癒が期待しづらい
→膝関節は不安定なまま
→運動復帰すると切り返しやジャンプ動作などで再び膝くずれ
→プレー継続により損傷が進行
→断裂した半月板が膝に挟まり動かないロッキングになることも
・受傷現場
→徒手的に前方引き出しテストやLachman(ラックマン)テスト
→回旋不安定性評価にはpivot-shift testやN-test
・診断にはMRI検査が必須
(剥離骨折の確認のためX線検査も必要)
・X線検査→患側だけ脛骨の前方亜脱臼が認められる
→複合的な判断が必要
・半月板や軟骨損傷、骨挫傷、骨折(成長期)の合併、他の靭帯も確認
・保存療法でスポーツ復帰→可能性は低い
・切り返しやジャンプ動作を必要とするスポーツに元のパフォーマンスで復帰
→基本的には手術が必要(関節鏡での自分の腱を用いた再建術)
・移植腱は主にハムストリング腱か骨付き膝蓋腱(競技特性などに応じて選択)
→移植腱が骨に固着・成熟しないと強度が出ない
→復帰には長い時間がかかる
→術後3ヶ月からジョギング
→術後8ヶ月から1年かけて競技復帰
→その間、筋力トレーニングや競技に応じたアジリティトレーニングなどのリハビリが重要
(半月板損傷を合併していれば同時に縫合術や部分切除術)
・術後、反対側の前十字靭帯を損傷する対側受傷や移植靭帯の再断裂も多い
→再受傷予防も必要
→再受傷は復帰直後である術後1年の付近にピーク
→その後もリスクあり。継続した再受傷予防トレーニングが必要
・復帰まで長期間を要するが近年手術後のスポーツ復帰率は高い
→スポーツを断念しなければならない外傷ではなくなった
・腱を採取するとその筋の筋力は低下
→元と同程度に筋力が回復するには少なくと1年近く要する
(膝蓋腱を採取した場合、膝前面痛が残存することも)
以上、
スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]の「前十字靭帯損傷」からの引用でした。
なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。
今回の記事が、親子の「健全で楽しいスポーツ」につながれば幸いです。
では。
・ジャンプの着地
・切り返し動作