一般の骨折との違いを知って疲労骨折を予防しよう〜スポーツ医学検定より〜

今回はスポーツにおける、

・一度の外力によって生じる「一般の骨折」

・繰り返しの外力で生じる「疲労骨折」

について、スポーツ医学検定公式テキストより述べていきます。

それぞれの発生と治癒のメカニズム、治療、部位別の特徴について理解を深め、予防を含め適切な対処ができるようにしましょう。

一般の骨折

一般の骨折との違いを知って疲労骨折を予防しよう〜スポーツ医学検定より〜

骨折は、打撲などで直接加わる直達外力や、間接的に加わる捻じりの力などの介達外力によって生じる。

身体のあらゆる骨に骨折は生じるが、外力の大きさや方向、骨の強度により、骨折の形態や転位の程度は異なる。

骨折の主な症状は、骨折部の疼痛・圧痛・腫脹・変形や異常可動域、関節可動域制限などの機能障害である。

骨は自然治癒能力を有するため、骨折の治療の基本は保存療法だが、転位が大きな場合などは手術が必要となる。

 

骨折の治癒過程と治療

骨折の治癒過程は、炎症期・修復期・リモデリング期の3つのステージに分けられる。

炎症期では骨折部位に血腫が形成され、修復期には仮骨が形成される。

リモデリング期には仮骨が骨組織に置換され、元の形に修復される。

転位が少なく、安定している骨折の場合、保存療法が第一選択であり、ギブスやシーネ、装具などで骨折部を固定し、自然に治癒過程が進むのを待つ。

荷重部である下肢の骨折では松葉杖を用いて免荷を行う。

しかし、むやみに長期固定すると、骨萎縮や関節拘縮が進行する。

そのため、固定は骨癒合が得られるまでの適切な期間とし、リハビリテーションで機能改善を図る必要がある。

骨折の治癒に必要な期間は骨折の部位や程度によって異なる。

転位が大きく不安定な骨折や関節面にずれを生じる関節内骨折では手術が選択肢となる。

整復した骨折部を金属プレート、スクリュー、髄内釘などが固定する。

スポーツ選手の場合、早期の骨折部の安定を目的として、手術が選択されることもある。

 

骨折した骨が皮膚表面の創とつながっている開放骨折の場合、骨折部が感染して難治性の骨髄炎に至るリスクがあり、緊急で洗浄手術をする必要がある。

 

胸郭の骨折

肋骨骨折は、コンタクトスポーツなどで直達外力により発生し、呼吸時の痛みを生じる。

肋骨骨折はバンドを用いた固定による保存療法が行われる。

肋骨の前方はX線検査で写らない肋軟骨となっており、同部の損傷はX線検査では判断できない。

肋骨に転位を伴う骨折が生じた場合、肋骨が肺を損傷し、外傷性気胸や血胸となることもある。

 

上肢の骨折

鎖骨骨折は直達外力でも介達外力でも起こりうる。

最も多い中央部での骨折では、鎖骨バンドによる固定を行う保存療法が一般的だが、転位が大きな場合や遠位部での骨折では金属プレートやワイヤーを用いた手術が行われる。

 

上腕骨骨折では転倒した際に生じることが多いが、骨幹部の骨折は投球動作や腕相撲など捻じりの力による介達外力で生じることもある。

らせん状に骨折した場合、骨折部の接触面が広く骨癒合しやすく、装具などを用いた保存療法が選択される。

接触面が狭く、また転位があって不安定な場合は髄内釘などを用いた手術が選択される。

上腕骨周囲を走行する橈骨神経の損傷を合併した場合、手関節の背屈制限などが出るため、注意が必要である。

 

撓骨遠位端骨折は、手をついて転倒した際に受傷することが多く、スポーツのみでなく高齢者の転倒で頻度が多い。

転位がある場合は徒手整復を試みるが、整復後も不安定な骨折や関節内に骨折線が及び関節面がずれている場合、手術が選択肢となる。

舟状骨骨折も転倒して手をついた際に起こる骨折であり、転位が少ないとX線検査でも判別が難しく、また骨の血流がよくないために偽関節となりやすく、手術が選択肢となることも多い。

中手骨骨折は、ボクサー骨折とも呼ばれ、コンタクトスポーツや格闘技などで手の甲に起きる骨折である。

転位の程度や骨折の部位により、手術も選択肢となる。

 

下肢・骨盤の骨折

高所から転落など、高エネルギーの外力による骨盤骨折は、大量出血により生命を脅かす危険のある外傷である。

安定型のものは保存療法で治癒するが、不安定な骨折の場合、緊急手術が行われることもある。

大腿骨の骨幹部や顆上部、脛骨の近位部や骨幹部での骨折は、比較的大きな外力が加わった際に生じる。

 

膝蓋骨骨折の受傷機転は直達外力が多く、横方向に骨折線が生じやすい。

転位が大きく、膝の屈伸に伴う不安定性がある場合、金属のワイヤーで固定する手術が選択肢となる。

 

足関節骨折は、足関節を捻ることによる介達外力で起こることが多い。

受傷機転が足関節外側靭帯損傷と同じため、骨折を疑った場合、X線検査が必要である。

腓骨の外果と脛骨の内果の両者が同時に骨折することもある。

また、内果骨折と腓骨筋近位部の骨折が合併することもあり、この時脛骨と腓骨間の靭帯も損傷する。

転位が少なければギブスや装具による保存療法が選択されるが、金属プレートやスクリューを用いた手術が選択されることも多い。

 

疲労骨折

1回の外力ではなく、繰り返しの外力によって生じる骨折を疲労骨折と呼ぶ。

繰り返しの外力は骨に小さな損傷(マイクロダメージ)を起こすが、通常自然に修復される。

しかし、修復能力が低下している場合や修復能力を超える損傷が加わり続けた場合、疲労骨折が生じる。

使い過ぎが原因の典型的なスポーツ障害であり、不良な競技動作やコンディション不足が基盤にあることも多い。

疲労骨折はX線検査で診断される前の段階でも、MRI検査で捉えられることが多い。

そのため、初期の疲労骨折の診断にMRI検査は有用である。

 

疲労骨折の基本的な治療

疲労骨折は繰り返しの負荷が加わる部位であれば、あらゆる骨に生じうる。

通常、負荷の加わる動作を控えることで治癒に向かうが、部位によっては難治性の疲労骨折もある。

 

治療はマイクロダメージの軽減と自然治癒の2方向からのアプローチが考えられる。

運動の休止と、局所の負荷の原因となる不良な競技動作改善のアスレチックリハビリテーションはマイクロダメージの軽減となる。

食事や睡眠の改善などのコンディショニング調整は自然修復能力を向上させるアプローチとなる。

超音波骨折治療は低出力の超音波による物理的な刺激を骨折部位に与えることで骨癒合を促進させる。

難治性の場合、骨髄内に金属スクリューなどを入れる手術が行われることもある。

女性アスリートでは利用可能エネルギー不足や無月経がエストロゲン減少を招き、骨密度低下により疲労骨折を生じやすくなるため注意が必要。

 

体幹の疲労骨折

腰椎分離症は、成長期に生じる腰椎の疲労骨折であり、頻度も高い。

 

肋骨疲労骨折は、ゴルフでは非利き手側の第5・6肋骨に、野球では利き手側の第7・8肋骨に起こりやすい。

体幹回旋動作の繰り返しにより、肩甲骨と肋骨をつなぐ前鋸筋の付着部に過度な負荷が加わることが原因と考えられる。

背中や肩甲骨の痛みとして自覚されるケースも多い。

また、前斜角筋・中斜角筋と前鋸筋が付着している第1肋骨にも疲労骨折が起こることがある。

通常、保存療法が行われる。

 

骨盤部の疲労骨折としては、恥骨下枝疲労骨折の報告が多い。

恥骨下枝は恥骨と坐骨の結合部で、坐骨には大内転筋や仙結節靭帯、恥骨には長短内転筋・恥骨筋や薄筋が付着している。

そのバランス不良や過負荷が原因と考えられている。

女性アスリートに多く見られているため、月経の関与も注意が必要である。

保存療法で治癒することが多いが、鼠蹊部全体のバランス不良によってグロインペイン症候群につながることもある。

 

上肢の疲労骨折

上肢の疲労骨折は下肢や体幹と比べると頻度は少ないが、投球動作に関連する尺骨の肘頭疲労骨折が知られている。

投球動作による肘関節の伸展・外反ストレスの繰り返しが原因と考えられている。

内側側副靭帯損傷を合併しているケースも多い。

投球禁止や投球フォームの改善などアスリハが重要だが、手術が選択されるケースもある。

剣道などでは尺骨骨幹部の疲労骨折が生じることもある。

 

下肢の疲労骨折

スポーツにおける疲労骨折は上肢よりも下肢に多く発生し、その中でも脛骨骨折は最も頻度が高い。

脛骨跳躍型疲労骨折は脛骨中央部・前方骨皮質の疲労骨折であり、ジャンプの繰り返しが原因と考えられている。

難治性であるため、長期の保存療法で改善しない場合も多く、脛骨に髄内釘を挿入する手術が選択されることもある。

一方、脛骨の近位1/3ないし遠位1/3に生じる脛骨疾走型疲労骨折はランニングの繰り返しが原因と考えられており、保存療法が行われる。

脛骨遠位部の内果に生じる疲労骨折は難治性で手術が選択肢となることもある。

 

次に多いのは中足骨疲労骨折である。

第1~第5中速骨のいずれの骨にも生じうるが、第2・第3中足骨で特に多く、マラソンなどのランニング動作が原因となる。

サッカー選手に多い第5中足骨近位部の疲労骨折は、ジョーンズ骨折と呼ばれている。

難治性のため髄内に金属スクリューを挿入する手術が選択されることもある。

 

腓骨疲労骨折の跳躍型は近位に、疾走型は遠位に多く見られ、どちらも保存療法で改善することが多い。

その他、大腿骨、踵骨、膝蓋骨、舟状骨などの疲労骨折も多く見られ、基本的には保存療法が行われるが、手術も選択肢となることもある。

 

おわりに

最後にまとめます。

一般の骨折

原因:打撲などで直接加わる直達外力や、間接的な捻じりの力などの介達外力

症状:骨折部の疼痛・圧痛・腫脹・変形や異常可動域、関節可動域制限など

治療:基本は自然治癒による保存療法。転位が大きな場合などは手術

疲労骨折

機序:繰り返しの外力による小さな損傷(マイクロダメージ)

→修復能力が低下 or 修復能力を超える損傷が加わり続ける

→疲労骨折

原因:使い過ぎ、不良な競技動作、コンディション不足

診断:初期→MRI検査、初期以降→X線検査

治療:運動の休止、局所の負荷の原因となる不良な競技動作改善

食事や睡眠の改善などのコンディショニング調整

超音波骨折治療による骨癒合促進

難治性の場合、手術が行われることも

以上、

スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]

の「一般の骨折」と「疲労骨折」からの引用でした。

なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。

疲労骨折は、急な外力に起因する一般的な骨折と違い、繰り返しの外力の蓄積に起因するためある程度予防ができそうです。

過度に運動をしすぎてないか?

局所に負荷を与え続ける不良な競技動作はないか?

食事や睡眠などのコンディション不足はないか?

今回の記事が、自身や家族にとっての健全で楽しいスポーツにつながれば幸いです。

では。