ボールを投げると肘が痛む。楽しくない。
そんな経験をしたことがある野球のプレイヤーは少なくないはず。
ちなみに同じ野球肘でも、その原因と治療、復帰までは「大人」と「子ども」で異なります。
今回は「大人」の野球肘について、スポーツ医学検定公式テキストより述べていきます。
大人の肘の痛み、野球肘とは
多くの野球選手が肘の内側に痛みを訴えて来院する。
投球動作の加速期に肘の内側には大きな外反力が加わり、骨端線閉鎖前は内側上顆下端の障害が多いが、内側上顆の骨化完了後は内側側副靱帯が損傷しやすく、トップレベルの野球選手の選手生命に関わる問題の1つとなる。
また、変形性肘関節症、肘頭疲労骨折、尺骨神経麻痺などのトップレベルの選手になるほど増えてくる。
どの部位の障害かにより治療も変わるため、理学所見、X線検査、MRI検査、超音波検査など多方面に責任病巣を明らかにすることが重要となる。
スポーツ障害による変形性肘関節症は、膝関節とは異なり、関節摩耗による関節裂隙の狭小化を生じることは少なく、骨棘形成が主体である。
大人の肘の痛み、野球肘の受傷機転・予防
投球による過度なストレスにより発症する。
成長期の野球肘でも述べたように、投球動作では、内側は牽引・圧迫、外側は圧迫の力がかかる。
牽引の力は内側側副靱帯だけでなく尺骨神経にもかかる。
また後方では、肘頭先端内側には圧迫力、肘頭には剪断力がかかる。
大人の肘の痛み、野球肘の症状
投球相の中でも、肩関節が最大外転外旋(MER:maximum external rotation)となる時とボールリリース時に痛みが出るケースが多い。
MERの時期には牽引力が最大となり、リリース時には肘関節外反伸展により後方インピンジメントが生じる。
尺骨神経障害の場合は脱力やしびれを伴うこともある。
大人の肘の痛み、野球肘の検査・診断
理学所見、X線検査、MRI検査、超音波検査を用い、多方面な診断が重要である。
理学所見はMERの再現を行うため、外反ストレスをかけ痛みの再現を行う。
外反ストレステストだけでは靭帯の痛みなのか、尺骨神経の痛みなのか判別がつかないため圧痛を確認しながら診断を行う。
また尺骨神経の脱臼の有無も確認する。
X線検査は画像診断の基本として行われるが、成人期の野球肘の多くは軟部組織の障害であり、確定診断の多くは超音波検査やMRI検査で行う。
肘頭の障害はCT検査が有用なことが多い。
大人の肘の痛み、野球肘の治療・復帰の流れ
投球障害の基本は保存療法である。
その障害も患部外の身体機能に問題があることが多い。
投球時の内側部や肘頭への負担を軽減するよう、股関節や肩甲胸郭機能を中心とした患部外の身体機能の改善を行う。
保存療法が無効な例には手術が必要となる。
手術療法の成績は比較的良好である。
内側側副靱帯に対しては内側側副靱帯再建術、肘頭疲労骨折に対しては観血的骨接合術、変形性肘関節症に対しては鏡視下クリーニング、尺骨神経障害に対しては神経剥離術や尺骨神経前方移行術を行う。
内側側副靱帯再建術は、米国のFrank Jobe博士が大リーグ投手のTommy John選手に行い、術後投手として復帰したことで知られている。
障害に応じて復帰の時期は異なる。
どの障害であっても投球動作が円滑に行えるように、また再発防止のために投球開始前までの患部外の機能改善が重要である。
おわりに
最後にまとめます。
・投球による過度なストレスにより発症
・投球動作では、内側は牽引・圧迫、外側は圧迫の力がかかる
・牽引の力は内側側副靱帯だけでなく尺骨神経にも
・後方では、肘頭先端内側には圧迫力、肘頭には剪断力がかかる
・肩関節の最大外転外旋(MER:maximum external rotation)時とボールリリース時に痛み
→MERの時期には牽引力が最大
→リリース時には肘関節外反伸展により後方インピンジメント
・尺骨神経障害の場合は脱力やしびれを伴うことも
・理学所見、X線検査、MRI検査、超音波検査を用い、多方面な診断が重要
・理学所見:MERの再現→外反ストレスをかけ痛みの再現
・外反ストレステストだけでは靭帯の痛みor尺骨神経の痛みの判別不可
→圧痛を確認しながら診断
・尺骨神経の脱臼の有無も確認する
・X線検査は画像診断の基本として行われる
→成人期の野球肘の多くは軟部組織の障害
→確定診断の多くは超音波検査やMRI検査で行う
・肘頭の障害はCT検査が有用なことが多い
・投球障害の基本は保存療法
・患部外の身体機能に問題があることが多い
→股関節や肩甲胸郭機能を中心とした患部外の身体機能の改善を行う
→投球時の内側部や肘頭への負担を軽減
・保存療法が無効な例には手術が必要
→手術療法の成績は比較的良好
・内側側副靱帯→内側側副靱帯再建術
・肘頭疲労骨折→観血的骨接合術
・変形性肘関節症→鏡視下クリーニング
・尺骨神経障害→神経剥離術や尺骨神経前方移行術
・障害に応じて復帰の時期は異なる
→どの障害であっても投球開始前までの患部外の機能改善が重要
→投球動作が円滑に行える&再発防止のため
以上、
スポーツ医学検定 公式テキスト 1級 [ 一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 ]の「野球肘(成人)」からの引用でした。
なおスポーツ医学検定についての詳細は公式サイトをご覧ください。
読者の親子で健康で楽しいスポーツの一助になれば幸いです。
では。
・多くが肘の内側に痛みを訴える
・投球動作の加速期:肘の内側には大きな外反力
→骨端線閉鎖前は内側上顆下端の障害が多い
→内側上顆の骨化完了後は内側側副靱帯が損傷しやい
→トップレベルの野球選手の選手生命に関わる問題の1つ
・トップレベルの選手になるほど変形性肘関節症、肘頭疲労骨折、尺骨神経麻痺などが増える
・どの部位の障害かにより治療も変わる
→理学所見、X線検査、MRI検査、超音波検査など多方面に責任病巣を明らかにすることが重要
・スポーツ障害による変形性肘関節症は骨棘形成が主体
→膝関節は関節摩耗による関節裂隙の狭小化を生じる