野球におけるパワー|筋力とは違う無酸素性パワーを高めよう〜中垣征一郎氏の著書より〜

「静」と「動」が同居するスポーツ、野球。

その間、爆発的かつ瞬間的な力強いパフォーマンスを生み出すのが「無酸素性パワー」です。

無酸素性パワーを生み出す「動き」には、様々な「運動パターン」があります。

「野球の動き」に見合った運動を適切に行うこと。

そうすれば無酸素性パワーが高まり、野球のパフォーマンスアップにつながります。

今回は、

・プロ野球日本ハムのトレーナー(2004年〜2010年、2013年〜2017年)

・ダルビッシュ有選手の専属トレーナー(2012年)

・MLBのパドレスのトレーナー(2017年〜2018年)

・現オリックス・バファローズ巡回ヘッドコーチ(2019年〜)

と、レジェンド級にトレーナーとしてご活躍中の中垣征一郎氏の唯一の著書「野球における体力トレーニングの基礎理論」から、パワー(無酸素性パワー)のトレーニングについて言及されている部分をご紹介します。

パワー(無酸素性パワー)とは

無酸素性パワーとは、瞬発力、敏捷性
、俊敏性、パワー、スピード、アジリティ、クイックネスなどと呼ばれているが、爆発的に(短時間に)大きな無酸素性エネルギー(ATP-CP系のエネルギー)を出す能力のこと。

野球においてパワー(無酸素性パワー)は極めて重要である。

パワーは実践の場では、

・瞬発力

・敏捷性

・俊敏性

・パワー

・スピード

・アジリティ

・クイックネス

などの呼ばれ方をされているが、いずれも爆発的に(短時間に)大きな無酸素性エネルギー(ATP-CP系のエネルギー)を出す能力としてみなされている。

 

パワー(無酸素性パワー)の評価法

無酸素性パワーは、50m走、垂直跳び
、ハンドボール投げ、自転車のペダリング運動、腕(肘)屈曲・伸展などの短時間(約10秒)運動における成績(パフォーマンス)を用いて評価
無酸素性パワーは、短時間(約10秒)運動における成績(パフォーマンス)を用いて評価

パワーの優劣は、短時間(約10秒以内)に産出された無酸素性エネルギーを直接測定することが難しいので、一般的には短時間運動における成績(パフォーマンス)を用いて評価している。

運動は、

・50m走

・垂直跳び

・ハンドボール投げ

・自転車のペダリング運動

・腕(肘)屈曲・伸展

など様々である。

またそれらは、

・全身運動と部分運動

・上半身の運動と下半身の運動

・単発的運動と連続的運動

・循環型運動と非循環型運動

・ピストン型とスイング型

・スピード型と力型運動

など、様々なタイプの運動に分かれる。

そのために、その運動の特徴をとらえて、上述のような名称でパワーの優劣を評価している。

 

パワー(無酸素性パワー)の評価法の分け方

このことは、パワーの優劣は一つ負荷方法では的確に評価できないことを示している。

しかし、運動ごとに名称をかえて評価することは煩雑なので、ここでは一括して、単にパワーと呼ぶこととする。

ただし、下記のようにパワーをいくつかに分けておくことが役立つ。

そのことによって、どのパワーに優れ、どのパワーに劣っているかを的確に評価することができるからである。

・走型パワー、跳型パワー、投型パワー、打型パワー

・腕屈曲・伸展パワー、脚屈曲・伸展パワー

・スイング型パワー、ピストン型パワー

・スピード型パワー、力型パワー

・アイソメトリックパワー、コンセントリックパワー、エキセントリックパワーなど

野球には様々な動き(運動様式)が含まれているので、上記のような様々なパワーが関与しているが、その関与の仕方はポジションによって大きく異なる。

例えば、投手であれば、

・投型パワー

・上半身:スイング型パワー、スピード型パワー、エキセントリック・コンセントリックパワー

・下半身:ピストン型パワー、力型パワー、エキセントリック・コンセントリックパワー

・体幹:力型パワー、3種の筋収縮(アイソメトリック、コンセントリック、エキセントリック)

によってパワーが大きく関与している。

これらのことは、投手のパワーを評価する場合には、特性の異なる様々な運動を用いることが必要であることを意味している。

 

パワー(無酸素性パワー)に影響する要因

無酸素性パワーのトレーニングでは、伸張局面から短縮局面への切り替えをできるだけ素早く行うことなど力の立ち上がりの速さを意識する
トレーニングでは、力の立ち上がりの速さを意識する

筋力をもとにして、目的とした動きの中で爆発的に力を発揮する能力が無酸素性パワーである。

1回ごとの運動において発揮されるパワーの大きさは筋肉に貯蔵されるATP-CPの量に大きく影響される。

筋内に貯蔵されるATP-CPの量は、筋の大きさに依存する。

無酸素性エネルギーは筋内に貯蔵されているATP-CPを用いて即座に産出されるが、約10秒以内の激しい運動で消失する。

しかしATP-CPの再産出は速いので、運動遂行時間にもよるが少し休息すればまた前と同様の運動を遂行できる。

 

また、実際の競技パフォーマンスで発揮されるパワーは様々な運動を通して発揮されるので、パワーを決定する要因には、筋力の項で述べた筋力を決定する要因の他に、

・柔軟性

・動きをコントロールする調整力

・身体の形態

が関与している。

膝関節や股関節の単関節運動で大きな力を発揮できるからといって、跳躍運動など多関節運動によって行われる下肢のパワーの発揮においてはそれほど優れていない競技者がいることも事実である。

 

主な要因として以下のようなものが考えられる。

①身体形態、筋組成

②力の立ち上がりの速さ

③動きの調整力

①については、

・骨格や筋腱の長さの比

・筋腱の骨への付着部の位置

・筋の羽状角や筋繊維組成

などはトレーニングによって大きく変えることはできない。

しかし、②や③についてはトレーニングによって改善できる可能性がある。

例えばウェイトトレーニングを行う際、筋力向上や筋肥大のみをねらいと行うのではなく、伸張局面から短縮局面への切り替えをできるだけ素早く行うことなどは力の立ち上がりの速さを向上させる可能性がある。

また、常に動きに留意点・着眼点を持って筋力トレーニングを行うことが、調整力(コーディネーション能力)を向上させ、多関節運動において効率的にパワーを発揮するためには大切である。

 

野球におけるパワー(無酸素性パワー)のトレーニング法

メディシンボールを使ったプライオメトリクスは無酸素性パワートレーニングになる
メディシンボールを使ったプライオメトリクスは無酸素性パワートレーニングになる

爆発的に力を発揮するような運動を行うことによってパワーは養成される。

以下のような野球の技術的トレーニング手段の多くは、無酸素性パワーのトレーニング手段でもある。

①投球練習

②打撃練習

③守備でのダッシュ、ストップ、スローイングなど

これらの技術トレーニング手段によって、パワーを向上させることは可能である。

しかし、専門的なこれらの運動のみでパワーをトレーニングを行うことには、次のような問題点が考えられる。

①投球動作における肩肘に代表されるように、局所へ過度の負担がかかる

②「投げる」「打つ」「捕る」などの運動のみでは、全身や局所の長所や短所に対する重点的なトレーニングを行うためには効率的ではない、など

これらの問題を解決するために、技術に関連のある動きを用いてパワーのトレーニングを計画的に行う必要がある。

そのために行われるトレーニング手段としてプライオメトリクスで用いる運動がある。

上方向スクワット姿勢からのスローイングフロントスロー
バックスロー
ラテラルスロー
下方向オーバーハンドからのスローイング片脚踏み込み
小さなジャンプからの叩きつけ
横方向横方向への体重移動からのスローイングワンハンドスロー
ツーハンドスロー
野球選手に用いられる代表的なメディシンボールを使った投運動

 

両脚連続ジャンプ垂直方向
前方向
斜め方向(切り換えしあり)
横方向(切り替えしあり/なし) など
片脚連続ジャンプ垂直方向(片脚連続)
斜め方向(交互)
横方向(交互、切り替えしあり/なし) など
野球選手に用いられる代表的な跳運動

ここで示す運動は、5〜10回ごとに1分程度の休憩をはさみ、総回数が鍛錬期であっても約100回以内で行うことが適切であろう。

例1.メディシンボールスロー:各種目を10回ずつ(総回数70回)

例2.両脚ジャンプ:各種目を10回2セットずつ(総回数70回)

例3.スプリント:短い距離(20〜30m)は15本以内で、ゆっくり歩いて戻る程度の休憩をはさむ

パワー向上のためのトレーニング方法は競技種目によって様々であろう。

しかし、共通して言えることは、重力下で行われる多くの競技スポーツにおいて下肢の力型のパワー発揮が多くの場面で求められていることである。

野球においても、様々な運動に関わっている下肢とともに、上肢および体幹のパワーのトレーニングを進めていくことが重要であろう。

 

パワー(無酸素性パワー)トレーニングの留意事項

パワートレーニングを行う際の主な留意事項をあげる。

 

パワートレーニングで用いる動きに注意する

一般的パワートレーニングとしてよりパワーを発揮しやすい動きを用いること、専門的なパワートレーニングとして野球に関連した動きを用いることが大切である。

例えば、メディシンボールスローのような投型の運動でも、単純なスクワット動作から両腕を使って投げるような運動は一般的パワートレーニングと言える。

一方、横方向の体重移動から踏み込み動作を介して投げる動作は専門的パワートレーニングと言える。

いずれの場合も、用いる運動においてより効果的な動きを明確にして行うことが重要である。

 

1日のトレーニングの中でパワートレーニングの取り入れ方に留意する

1日のトレーニングの中で疲労感が少なく、かつ高い強度で集中してトレーニングを行う。

 

傷害の予防に留意する

過度の反復や、局所にストレスのかかる動きで行うと傷害の直接的な原因となる。

頻度や反復回数、局所に負担のかかるような動きをできるだけ避けることに留意する。

 

発育発達期におけるパワートレーニングの取り入れ方に留意する

発育発達期においては身体の一部に過剰な負荷がかかるような手段は避けるべきであるが、様々な全身的な動きを用いてパワートレーニングを行うことは大切である。

爆発的な力の発揮の仕方や動き方の学習を通して、調整力(神経系)の発達が期待できるからである。

 

おわりに

最後にまとめます。

パワー(無酸素性パワー)とは

・筋力をもとに、目的の動きの中で爆発的に力を発揮する能力が無酸素性パワー

・野球においてパワー(無酸素性パワー)は極めて重要

・パワーは、

・瞬発力

・敏捷性

・俊敏性

・パワー

・スピード

・アジリティ

・クイックネス

などの呼ばれ方をされている

・爆発的かつ短時間に大きな無酸素性エネルギー(ATP-CP系のエネルギー)を出す能力のこと

パワー(無酸素性パワー)の評価法

・一般的には以下の短時間運動における成績(パフォーマンス)を用いて評価

・50m走

・垂直跳び

・ハンドボール投げ

・自転車のペダリング運動

・腕(肘)屈曲・伸展

・以下のような様々なタイプの運動に分かれる

・全身運動と部分運動

・上半身の運動と下半身の運動

・単発的運動と連続的運動

・循環型運動と非循環型運動

・ピストン型とスイング型

・スピード型と力型運動

・走型パワー、跳型パワー、投型パワー、打型パワー

・腕屈曲・伸展パワー、脚屈曲・伸展パワー

・スイング型パワー、ピストン型パワー

・スピード型パワー、力型パワー

・アイソメトリックパワー、コンセントリックパワー、エキセントリックパワーなど

・例えば、投手であれば、

・投型パワー

・上半身:スイング型パワー、スピード型パワー、エキセントリック・コンセントリックパワー

・下半身:ピストン型パワー、力型パワー、エキセントリック・コンセントリックパワー

・体幹:力型パワー、3種の筋収縮(アイソメトリック、コンセントリック、エキセントリック)

によってパワーが大きく関与している。

パワー(無酸素性パワー)に影響する要因

・1回ごとの運動に置いて発揮されるパワーの大きさは筋肉に貯蔵されるATP-CPの量に大きく影響

→ATP-CPの量は、筋の大きさに依存

・無酸素性エネルギーは筋内に貯蔵されているATP-CPを用いて即座に産出

→約10秒以内の激しい運動で消失

・ATP-CPの再産出は速い

→運動遂行時間にもよるが少し休息すれば同様の運動の遂行が可能に

・他に関与するものとして以下がある

・柔軟性

・動きをコントロールする調整力

・身体の形態

・膝や股関節の単関節運動で大きな力を発揮できても跳躍運動など多関節運動によって行われる下肢のパワーの発揮においてはそれほど優れていない競技者がいる

→主な要因としては以下

①身体形態、筋組成

②力の立ち上がりの速さ

③動きの調整力

①については、以下が要因で大きく変えることはできない

・骨格や筋腱の長さの比

・筋腱の骨への付着部の位置

・筋の羽状角や筋繊維組成

しかし、②や③については改善できる可能性(+)

・ウェイトトレーニングでは、伸張局面から短縮局面への切り替えを素早く行う

→②の改善の可能性

・常に動きに留意点・着眼点を持って筋力トレーニングを行う

→③を改善させ、多関節運動において効率的なパワー発揮へ

パワー(無酸素性パワー)のトレーニング法

・爆発的に力を発揮するような運動を行うこと

→パワーは養成される

・以下も無酸素性パワーのトレーニング手段でもある

①投球練習

②打撃練習

③守備でのダッシュ、ストップ、スローイングなど

・専門的な①②③の運動のみでパワートレーニングを行う問題点は以下

①投球における肩肘など、局所へ過度な負担

②全身や局所の長所や短所に対する重点的なトレーニングを行うためには効率的ではない、など

・これらの問題解決には、計画的な技術に関連ある動きのパワーのトレーニングを行う

→例としてのプライオメトリクスの具体例は以下

上方向スクワット姿勢からのスローイングフロントスロー
バックスロー
ラテラルスロー
下方向オーバーハンドからのスローイング片脚踏み込み
小さなジャンプからの叩きつけ
横方向横方向への体重移動からのスローイングワンハンドスロー
ツーハンドスロー
野球選手に用いられる代表的なメディシンボールを使った投運動
両脚連続ジャンプ垂直方向
前方向
斜め方向(切り換えしあり)
横方向(切り替えしあり/なし) など
片脚連続ジャンプ垂直方向(片脚連続)
斜め方向(交互)
横方向(交互、切り替えしあり/なし) など
野球選手に用いられる代表的な跳運動

・5〜10回ごとに1分程度の休憩&鍛錬期であっても総回数は約100回以内

例1.メディシンボールスロー:各種目を10回ずつ(総回数70回)

例2.両脚ジャンプ:各種目を10回2セットずつ(総回数70回)

例3.スプリント:短い距離(20〜30m)は15本以内で、ゆっくり歩いて戻る程度の休憩をはさむ

・重力下で行われる競技スポーツにおいて下肢の力型のパワー発揮が求められる

→野球においても、下肢とともに、上肢および体幹のパワーのトレーニングを進めていくことが重要

パワー(無酸素性パワー)トレーニングの留意事項

①パワートレーニングで用いる動きに注意

→一般的パワートレーニング:よりパワーを発揮しやすい動きを用いる

→専門的なパワートレーニング:野球に関連した動きを用いること

②1日のトレーニングの中でパワートレーニングの取り入れ方に留意

→1日の中で疲労感が少なく、かつ高い強度で集中して行う。

③傷害の予防に留意

→頻度や反復回数、局所に負担のかかる動きへ留意

④発育発達期におけるパワートレーニングの取り入れ方に留意

→身体の一部に過剰な負荷がかかるような手段は避けるべき

→様々な全身的な動きを用いてパワートレーニングを行うことは大切

→爆発的な力の発揮の仕方や動き方の学習を通し、調整力(神経系)の発達が期待できる

 

いかがでしたか?

「静」から「動」への動作はしんどいものです。

ですが、ポイントをつかんでトレーニングし、そのしんどさに打ち勝つ。

すると無酸素性パワーが高まり、野球の勝負にも勝てるかもです。

一定のパワーがつけば、しんどさは軽減し、動作が快適に!

 

より深く野球と無酸素性パワーについて知りたい方はこちらをどうぞ。

では。