免疫を下げず健康にウォーキングやランニングをするためのポイント

健康のためにウォーキングやランニングといった運動を行う人は多いと思います。

そもそも運動をするには身体が健康である必要があります。

その健康は、免疫の働きによって維持されていることは広く知られています。

しかし、運動の質によっては免疫の働きを弱め、健康を損なわせる恐れがあります。

良かれと思って行った運動によって、免疫力を下げ、風邪を引くことによって数日寝込み、結果的に筋力や体力を落としてしまっているかもしれません。

早稲田大学の鈴木克彦教授の【総説】運動と免疫という論文をもとに今回の記事を作成しています。

気になる方はぜひご一読ください。

過度な運動は免疫をさげる

トライアスロンやマラソンなど過度な運動は免疫を下げる

生来、身体に備わっている体内に侵入した細菌やウイルスといった異物に抵抗する免疫機能ですが、その働きは激しい運動やトレーニングはその働きを弱めることが分かっています。

マラソンやトライアスロンのような過酷な持久性運動では、競技終了後2週間で50~70%の選手が感冒症状を呈し、そのリスクは通常の2~6倍になると報告されている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/1/1/1_1_31/_pdf/-char/ja

引用のように、研究結果として証明されています。

筆者も激しい運動を行った後日、風邪を引くことがよくありました。

その原因は、

上気道の乾燥、冷却などの物理的影響

気道の繊毛運動が抑制され病原体を排除しにくくなる

というものの他に、

・抗体濃度やNK(ナチュラルキラー)細胞の数・機能、T細胞の機能が一過性に抑制

・免疫抑制作用のあるストレスホルモンや抗炎症性サイトカインの分泌

といった影響もあるようです。

 

免疫を構成する細胞とサイトカイン

ここでは免疫を構成する細胞たちについて簡単に説明します。

免疫を構成する細胞~白血球~

白血球はリンパ球、単球、顆粒球に分けられ、リンパ球はB細胞、T細胞、NK細胞に、単球はマクロファージに、顆粒球は好中球、好酸球、好塩基球に分けられる

血液の中の成分として、大きく分けると赤血球、白血球、血小板があります。

その中で免疫の役割を担うのが、白血球です。

白血球は、リンパ球、顆粒球、単球に分けられ、そこから以下に分類されます。

・リンパ球→B細胞、T細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞

・顆粒球→好酸球、好中球、好塩基球

・単球

それぞれの役割は、以下の表にまとめています。

B細胞病原体に対して抗体を作って攻撃する形質細胞や、抗原の情報を記憶する記憶B細胞になる
T細胞司令塔としてB細胞を活性化するヘルパーT細胞や、病原体に感染した細胞を攻撃するキラーT細胞、全般的な免疫応答を抑制するサプレッサーT細胞になる
NK細胞がん細胞や感染した細胞を攻撃する
好酸球寄生虫感染やアレルギー反応に関与
好中球血中で細菌、ウイルス、真菌を捕食
好塩基球寄生虫感染やアレルギー反応、かゆみの発生に関与
単球病原体を捕食するマクロファージや、T細胞を活性化する樹状細胞になる

 

サイトカイン

抗体やT細胞の作用は、前述の細胞らの共同作業によって有効になっています。

その共同作業を成立させているのが、化学伝達物質であるサイトカインです。

炎症を誘発するサイトカインと、炎症を抑制するサイトカインの両方があります。

代表的なサイトカインは以下です。

インターロイキン(IL)

インターフェロン(IFN)

腫瘍壊死因子(TNF)

インターフェロン(IFN)は肝炎の治療薬としても知られています。

また、新型コロナウイルス感染症では免疫の暴走が起き、全身に様々症状を引き起こす「サイトカインストーム」という現象が知られています。

このサイトカインストームは、これらのサイトカインの大量放出によって引き起こされています。

 

血中の白血球数の変動

運動によって白血球数は増加しますが、以下によって変動します。

・運動の強度

・運動の持続時間

1時間以内の比較的短時間の運動は運動強度に依存して、

①リンパ球、特にNK細胞が増加し、好中球、単球、好酸球も軽度増加(早期反応)

②運動のあとには数時間に渡り、リンパ球と好酸球が一過性に減少する一方、好中球は早期反応より大きな増加(後期反応)

します。

一方、1時間を越す持久性運動では、「好中球主体の白血球の増多」がみられます。

これは早期反応が運動中に経過し、身体の負担が増すことによって後期反応のみが顕在化することによります。

 

NK(ナチュラルキラー)細胞の変動

運動して早期に最も鋭敏に反応するのはNK細胞で、以下のような反応を示します。

①短時間・高強度の運動負荷では、血中のNK細胞の数が運動直後に平均の6倍ほどまで上昇

②運動終了後には運動の前の値の半数まで減少

この反応は運動の強度によるようです。

時間以上続く持久性運動のあと

NK細胞の数は運動の前の値より減少し、数時間後から1日で回復する

激しい運動のあと

NK細胞の活性は低下

 

T細胞の変動

NK細胞ほどではないものの、血中のT細胞数も増加します。

T細胞の増殖能は、

・最大酸素摂取量の75~80%で45~90分の持久性運動によって10~21%低下

・2時間以上のランニングでは半減する

と報告されています。

 

抗体濃度の変動

通常の運動や軽い運動では影響を受けないようですが、

・マラソンのような長時間の持久性運動後、血中IgGという抗体濃度が2日間低下した

・高強度で長時間の激運動の伴いIgAという抗体が低下する

と報告されています。

 

サイトカインの変動

炎症を引き起こす腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン(IL)の血中濃度は、激運動の数時間後に数倍上昇すると報告されています。

・しかし、これらを抗する物質も血中で増加し、尿として排泄も促進されるため、血中で半減するのは10~20分と短い

・激運動後の筋組織でも確認されており、局所的に働くものと考えられている

ということも分かっているようです。

その他、サイトカインの変動については以下のことが述べられています。

・好中球や単球を活性化するサイトカイン(IL-8)も持久性運動で初期から上昇する

・炎症の促進・抑制ともに作用するサイトカイン(IL-6)は、マラソンでは血中濃度が100倍も上昇する

・免疫を調節するサイトカイン(IFNやIL-2)は、激運動で血中濃度は不変ないし、低下するという報告が多く、それらを産出するリンパ球の能力も低下する

 

免疫学的に視点からみる運動による健康効果

免疫と運動の関係からみえる健康効果

運動が健康につながることは周知の通りです。

・運動はエネルギー消費を高め、栄養過剰摂取による肥満、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の予防・治療に有効

・インスリン抵抗性、肥満、動脈硬化症の成因としてTNFの関与が報告されているが、運動時に骨格筋に放出されるIL-6がTNFのインスリン抵抗性を改善させる

インスリンは、血中の血糖を細胞に取り込ませる作用があるホルモンのことで、「インスリン抵抗性」とは、インスリンの効き具合のこと。

また、免疫能は加齢に伴い低下し易感染性や発がんの原因となるため、その制御が重要ですが、

・適度な運動習慣により上気道感染の発症頻度は半減する

・動物実験では、感染や腫瘍増殖に対する抵抗力が増強する

・適度な運動習慣は、加齢に伴い低下するサイトカイン産出能が改善し、NK細胞活性やリンパ球増殖能、マクロファージ機能、血中の抗体に関して有効

・運動習慣により発がん予防効果は、複数の疫学調査で大腸がんはほぼ確実、肺がんと乳がんは可能性があると報告

・動物実験レベルでは、化学発がんモデルや腫瘍移植に対しても多くの研究で運動習慣の有効性が証明

と、適度な運動習慣は健康につながるということが様々な研究で具体的に証明されています。

 

どのような運動が免疫を保ちつつ、健康にとってよいのか

免疫を保つ健康な運動とは

健康増進のために推奨されている運動条件は、

「有酸素運動の強度、すなわち最大酸素摂取量50~60%ないし無酸素性作業閾値以下で1日20分~60分までを週3回以上の頻度を長期間継続すること」

が推奨されています。

この強度の運動は乳酸がたまり始めるボーダーラインであるATの範囲であり、疲労が蓄積しにくく習慣化しやすいためと考えられます。

免疫学的視点からは、

・一時的にせよ免疫抑制状態が生じないような運動が安全と言えるが、実際にこのような中等度の運動ならば好中球やリンパ球の数や機能も影響を受けない

・逆に不慣れな運動を急に行うと、血中好中球やリンパ球の変動、サイトカインの血中濃度の上昇も生じる

・したがって、非鍛錬者の場合には急に強い負荷の運動を行うべきではなく、徐々に運動量を増やして急激なストレス反応を回避することが障害の予防になる

・実際に実際に運動を継続すると慣れが生じ、急性反応も減弱する

・労力を残さない程度の適度な運動の習慣化が推奨される

ということが言われています。

 

競技スポーツを行う人が免疫を保ちつつトレーニングするためには

免疫を保ちつつ健康に競技スポーツをするには

「適度な運動は免疫能を高め感染やがんの予防に有効」とされる一方、

「競技スポーツにみられる過度なトレーニングは免疫能を下げ易感染性になる」

と言われている中、運動習慣と感染リスクについてはJカーブモデルが提唱されています。

また、

免疫細胞のエネルギー源となるグルタミンの血中濃度の低下

なども要因として考えられています。

 

減量を要する競技スポーツは要注意

運動の質による感染リスクの変動を表すJカーブモデル

栄養摂取制限下でトレーニングを行う減量を要するレスリング選手は、減量をしないレスリング選手より、

・リンパ球増殖能とT細胞機能の低下

・抗体などの血中濃度の低下

することが報告されています。

減量を要する競技は、

栄養摂取制限と試合前の精神的なストレスなどの悪条件も重なる

免疫能の低下により、風邪やヘルペスなどを起こしやすい

ということが言えるようです。

「運動選手にとって、トレーニングプログラムと適切な栄養を組み合わせることにより健康を害することなく目標を達成することは重要である」

と述べられています。

 

運動には栄養・水分補給が欠かせない

運動選手の健康管理には、糖分、たんぱく質のみならずビタミン、微量元素などが過不足なく摂取される必要があります。

栄養学では、人体を構成する元素のなかで、酸素、炭素、水素、窒素の4つを除いた他の元素をミネラルと呼び、さらにそのなかでも極めて少量しか存在しないものを微量元素と呼ぶ。

鉄、亜鉛、銅、クロム、モリブデン、マンガン、セレン、ヨウ素の8種類がある。

 

炭水化物と運動中の免疫の関係

炭水化物と運動中の免疫の関係

炭水化物の十分な摂取により、運動中の血糖値が高く維持され、

・インターロイキン(IL)の分泌

・好中球、単球の動員

・活性酸素の産出亢進

・血中リンパ球数とインターフェロン(IFN)産出リンパ球の減少

・血中グルタミン濃度の低下

などを予防できると報告されています。

 

水分と運動中の免疫の関係

水分と運動中の免疫の関係

水分補給は、脱水や熱中症予防になることは周知されていますが、

・激運動では唾液の分泌が増す→唾液中の抗体やリゾチームなど分泌予防するため重要

・暑い環境下で激運動を行うと高サイトカイン血症が生じやすい

と述べられています。

私も真夏の昼間に野球があった時、唾液が全然でなくなったことがありました。

その中で大声を出しながらプレイしていたというのは、免疫的には怖ろしいことですね…。

リゾチームとは、気管支粘液や涙に多く含まれる酵素であり、細菌を溶解する作用がある

 

ビタミンCと運動中の免疫の関係

ビタミンCと運動中の免疫の関係

ビタミンCは水溶性の抗酸化物質で免疫活性化作用があり、運動時の代謝経路にも関与していると報告されています。

血中ビタミンCの濃度は、激運動を行うと以下のことが分かっています。

・一過性に上昇する

・その後数日間数日間低下

この動態は運動による酸化ストレスに関係すると考えられています。

そして、通常のトレーニングではビタミンC欠乏症は生じないとも述べられています。

また、

・ビタミンCの摂取により運動の酸化ストレスや筋損傷が予防できるか否かについては一定の見解が得られていない

・過剰摂取(1,000mg以上/日)は腹痛や下痢を引き起こすこともある

とされています。

成人ではビタミンCの1日の推奨量は100mgです。

ちなみに、ミカンには100gあたり35mgのビタミンCが含まれ、皮をむいたミカン1個の重さは80g程度です。

 

ビタミンEと運動中の免疫の関係

ビタミンEと運動中の免疫の関係

ビタミンEは脂溶性の抗酸化物質であると同時に、T細胞の成熟・機能発現など免疫能の維持に不可欠です。

・激運動による酸化ストレスの予防に有用

・600mg/日以上の大量投与では運動中の酸化ストレスや炎症性サイトカインの反応を助長した

といった報告があるそうです。

ビタミンEの摂取の目安は1日あたり成人男性6.0mg、成人女性で6.0mgとされています。

アーモンドなどの種実類、油脂類、穀類、魚介類、豆類、野菜類に多く含まれています。

 

グルタミンと運動中の免疫の関係

グルタミンと運動中の免疫の関係

グルタミンはリンパ球やマクロファージ、好中球の増殖・機能発現に不可欠なエネルギー源で、

・腸上皮の腸内細菌に対するバリア機能を高める

・炎症や免疫抑制に関連するサイトカインの産出を抑制

・抗酸化物質の前駆物質である

と言われています。

運動中のグルタミン濃度の変化においては、

・1時間以内の短時間高強度運動では血中グルタミン濃度が上昇

・持久運動ではグルタミンの利用が高まり血中グルタミン濃度とリンパ球増殖能が低下

ということが報告されています。また、

「グルタミン濃度が低下した選手では、上気道感染の罹患率が増加した」

ということも分かっています。そして、

・激運動前のアミノ酸やグルタミンの摂取によってリンパ球増殖能やINF、ILといったサイトカインの産出低下を予防できた

・現時点ではグルタミン補給で感染のリスクが減るか否かの結論が出ていない

としてあります。

グルタミンは熱や酢に弱いため、刺身や生卵を食べると摂取できます。

 

亜鉛と運動中の免疫の関係

亜鉛と運動中の免疫の関係

亜鉛は、抗酸化酵素を始め100種類以上の酵素の構成成分であるとともに、亜鉛欠乏症では、

「サイトカイン産出、細胞性免疫の低下による易感染性が生じる」

とされています。

運動中の変化としては、

・急性運動負荷に伴い血中亜鉛濃度は一過性に上昇した後低下

・持久性の運動選手では安静時に血中濃度が低下

がみられ、後者は汗や尿中に排泄されるためと考えられているそうです。

1日の摂取の推奨量は18~69歳の男性で10mg、70歳以上の男性で9mg、18~69歳の女性で8mg、70歳以上男性で7mgとされています。

魚介類、肉類、藻類、野菜類、豆類、種実類に多く含まれています。

 

おわりに

健康のための運動を効果的に行うためには、「運動と免疫」の関係を知っておく必要がありますし、「免疫と栄養」の関係についても知っておく必要があります。

身体はそうした様々な要素が複雑かつ有機的に絡み合って機能していると言えます。

今回の記事は以下の文献や参考書を参考にさせて頂きました。

【総説】運動と栄養 鈴木克彦 早稲田大学人間科学部健康福祉科学科

からだの構造と機能 著A.シェフラー S.シュミット 監訳 三木明徳 井上貴央

健康長寿ネット

今回の記事を作成するにあたり、自分自身も大変勉強になりました。

今回の記事が、ウォーキングやランニング、スポーツを楽しく健康に続ける一助になれば幸いです。

では。

ウォーキングとランニング