報酬がもらえると脳内でドーパミンが出て、以降同じ行動を繰り返すネズミ。
一度、報酬がもらえると、同じ行動をするだけでドーパミンが出るようになったサル。
そんなお話しを前回の子育てに活かせる自己効力感を脳科学でひも解くでしました。

より子育てに活かせそうな研究はないのかしら…。

今回はヒトが対象の脳科学の研究結果を通して、子育てへの応用をご説明します。
前回ご説明した報酬の部分を、より実践的に活用してもらえるよう掘り下げていきたいと思います。
分かりやすくまとめており、数分でどなたでも豊かな子育てに活かせますので、ぜひご一読ください。
ポジティブな報酬とネガティブな報酬でのパフォーマンスの差
まずは、前回お話ししたように報酬には、
「褒められる」「お金がもらえる」といったポジティブな報酬
「怒られる」「罰金をとられる」といったネガティブな報酬
に分けられます。
ここでは、そうした報酬の違いによって脳内の状態や行動、パフォーマンスがどう変わるのかを述べていきます。
学習成果によって与える報酬が異なるwächterの実験

A.ポジティブな報酬群:「成績が上がったらお金を与え、下がったら何もなし」
B.ネガティブな報酬群:「成績が上がったら何もなし、下がったら罰金」
C.対照群:「成績が上がっても下がっても何もなし」
↓
【結果】Aのポジティブな報酬群は、Bのネガティブな報酬群、Cの対照群より技能の向上した。
また、Aのポジティブな報酬群は、他よりもドーパミンや感情・学習に関わる神経系が活性化した。

成績が下がった時より、「上がった時にポジティブな報酬」を与える方が、パフォーマンスは上がり、ドーパミンなどの神経系も活性化するということですね。
少し難しく感じる方も、後でまとめていますので、一旦何となく理解してもらえればOKです!
学習効果を時間の経過とともに追ったabeらの実験

A.ポジティブな報酬群:「成績が上がったらお金を与え、下がったら何もなし」
B.ネガティブな報酬群:「成績が上がったら何もなし、下がったら罰金」
C.対照群:「成績が上がっても下がっても何もなし」
↓
【結果】短期的には、各群エラーの程度は変わらないが、長期的にはAのポジティブな報酬群が学習効果の継続がみられた。

wächterと同じグループ分けで、パフォーマンスの推移を期間で追った実験です。
「成績が上がったらポジティブな報酬」を与える方が、長期的なパフォーマンス向上が期待出来そうです。
「成績が上がったらお金、下がったら罰金」の群を新たに設定したBongの実験

A.ポジティブな報酬群:「成績が上がったらお金を与え、下がったら何もなし」
B.ネガティブな報酬群:「成績が上がったら何もなし、下がったら罰金」
C.混合群:「成績が上がったらお金を与え、下がったら罰金」
↓
【結果】Aのポジティブな報酬群は、他の群より技能の向上がみられた。
また、Aのポジティブな報酬群は、他の群よりもドーパミンや意欲、感情に関わる脳の場所が活性化していた。

ここでは、「成績が上がったらお金を与え、下がったら罰金」という混合群が登場しています。
結果的には、今まで同じで「成績が上がったらポジティブな報酬」というスタイルが一番パフォーマンスが上がり、ドーパミンも出ていたということです。
ここでのまとめ
ここまでの実験から言えることをまとめると、
・ポジティブな報酬は、ドーパミンが出て、学習などの長期的なパフォーマンスの向上が期待できる
・ネガティブな報酬は、学習やスポーツなど様々なパフォーマンスの向上を抑制してしまうかも
・ポジティブな報酬とネガティブな報酬を混合した場合も、ポジティブな報酬のみの場合と比べると、パフォーマンスの向上を抑制する可能性がある
ということが言えます。
子育てへの応用
ここからは、実験で得られた知見を子育てに応用してみようと思います。
あなたが子どもに「ひらがなを覚えて欲しい」と思ったとします。
その中で、ひらがなを指さしながら声に出すという遊びをしていく中で、
Aさんは、上手く言えたら「褒める」、失敗したら「スルー」
Bさんは、上手く言えたら「スルー」、失敗したら「怒る」
Cさんは、上手く言えたら「褒める」、失敗したら「怒る」
という関わりをした場合、
Aさんのお子さんは覚えが良く、継続してひらがな遊びをしてくれる可能性があります。
逆に、Bさん、Cさんのお子さんは、その遊びをしたがらくなり、覚えるのも遅くなる可能性があることが、脳科学的に言えるかもしれません。

お子さんが出来ないからと怒ってしまってもあまり意味はないということですね。
(と自分自身に言い聞かせる…)
ポジティブな報酬の種類によってパフォーマンスは変わるのか
次に、ポジティブな報酬にも「お金」や「ポイント」など様々な種類があります。
ここでは、そうした報酬の違いによってパフォーマンスが変わるのかを述べていきます。
成績に応じて与える報酬をお金とポイントで分けたHübnerの実験

A.価値の高い報酬群:「実験に拘束された時間分の時給+成績に応じた出来高のお金がもらえる」
B.価値の低い報酬群:「実験に拘束された時間分の時給+成績に応じたポイントがもらえる」
↓
【結果】価値の高い報酬群であるAの方がBより成績が向上した。
ここでのまとめ
この実験結果をまとめると、成績の差は、対象者にとって関心や価値が比較的高い「お金」と、関心や価値が比較的低い「ポイント」という報酬の差によって生まれたと言えます。
子育てへの応用
例えば、「水泳教室に通わせ、水泳が上手になって欲しい」Aさん、Bさんがいます。
そのお二人のお子さんはそれぞれ仮面ライダーが大好きだとします。
Aさんは、教室に行ったら「駄菓子」を買ってあげ、水泳が上達しクラスが上がったら「仮面ライダーのお菓子」を買ってあげる
Bさんは、教室に行ったら「駄菓子」を買ってあげ、水泳が上達しクラスが上がったら「仮面ライダー以外のお菓子」を買ってあげる
という関わりをした場合、お子さんにとってより価値の高いご褒美を設定したAさんのお子さんは、Bさんのお子さんより、水泳教室の日を楽しみにするようになり、水泳の技能がはやく上達するかもしれません。

どれだけ「我が子は何が好きで、価値のあるご褒美は何だろう」と考えられるかが、上達させるためのポイントということですね。
(と再び自分に言い聞かせる…)
おわり
いかがでしたか?
子育ては、褒めることが大事ということは皆さんも分かっているとは思いますが、つい怒ってしまうことも多いですよね。
しかし、褒めることと、怒ることとでは、その結果に差がでる可能性があることが、脳科学的に言えるようです。
また、褒める以外の関わりとして、頑張ったらご褒美をあげる場合は、お子さんにとって関心・興味の高いものを用意していた方が、良い結果になる可能性が高いようです。
ご褒美はなくてもお子さんが頑張って成長していくために必要なことを記事にした、自己効力感を脳科学でひも解く~子どもが夢中になる「内的動機づけ」とは?~も併せてご覧になると、より深まります。
今回の記事が、皆さんとお子さんにとって幸せな時間を作るきっかけとなり、それが皆さんにとって良い報酬になれれば幸いです。
今回の実験の内容は
行動変容を導く!上肢機能回復アプローチ 脳卒中上肢麻痺に対する基本戦略 道免和久(監修)竹林崇(編集)
を参考にさせて頂いています。
報酬についての話は動物が対象だったから、いま一つピンと来ない。