【腸腰筋を効かそう】股関節を大きく使って心地よいウォーキング

ウォーキングというと様々な方法が提唱されていますが、本来自動的な動きであり、あれこれ意識するものではありません。

下の関連記事でも述べているように、動きの中であれこれ意識する前に、ウォーキングに必要な前提条件を整えることが肝になります。

その中で、整えておくべきとても重要なポイントが1つあります。

それは「腸腰筋を整えておく」ということ。

腸腰筋が整い、適切に効けば、ウォーキングのみならず階段上りやランニングも楽になります。

腸腰筋を自分のものにすべく、ぜひご一読ください。

ウォーキングの駆動源は股関節

ウォーキングの股関節における固定源と駆動源

交互に足を出して移動するウォーキングという動作を分解すると、

・地面に接している側の足から上の身体は土台

・その土台を使って、股関節から反対の足は前へ出ていく

という一面があります。

その土台である前者は固定源、土台を起点に動く関節である後者を駆動源と呼びます。

 

駆動源である股関節の構造

骨盤の寛骨臼という凹と大腿骨の骨頭という凸で構成される股関節

ウォーキングという動きの起点である股関節ですが、その構造は、

・骨盤の寛骨臼というくぼみ(凹)

・ももの骨である大腿骨の骨頭という丸み(凸)

・凹凸のまわりを靭帯と筋肉が覆う

となっています。

靭帯に取り囲まれ適合性が担保された凹凸を、そこをまたぐ筋肉が伸び縮みすることで、凹の中を凸が「転がり・滑り」、大きな動きを生み出しています。

 

身体を土台に股関節からももが前に出て、足が地面につく

股関節は伸ばされた腸腰筋が縮む作用で寛骨臼の中を大腿骨頭が転がり・滑り、ももが前に出る

つまり、身体を土台に股関節の前をまたぐ筋肉が縮むことで、凸である大腿骨が凹である寛骨臼の中を転がり・滑り、ももが前にでて、その慣性から膝が伸び足が踵から地面につきます。

股関節の前をまたぐ筋肉が縮む

大腿骨(凸)が寛骨臼(凹)を転がり・滑る

骨盤を含む身体を土台に、ももが前にでる

ももの先の膝が慣性で伸び、踵から地面につく

ここから見えてくることは、股関節の前面にある筋肉が柔軟に伸び縮みできれば、気持ちよくウォーキングできる可能性があるということです。

 

たくさんある股関節の前面の筋肉

股関節の前面にある筋肉、つまり身体に対してももを前に出す作用のある筋肉はたくさんあります。

腸腰筋、大腿直筋、恥骨筋、縫工筋、薄筋、大腿筋膜張筋、中殿筋、小殿筋、長内転筋、短内転筋、大内転筋…。

その中でも特に重要だと言われている筋肉が腸腰筋になります。

 

ウォーキングにおいてポイントとなる筋肉は腸腰筋

大腰筋と腸骨筋から構成される腸腰筋を正面と横から表すイラスト

腸腰筋とは、腸骨筋、大腰筋、小腰筋の3つの筋の総称になります。

腸骨筋→骨盤の一部である腸骨の内面から、大腿骨の小転子という股関節の付け根にかけて付着

大腰筋→第12胸椎~第5腰椎椎体および横突起から、小転子という股関節の付け根にかけて走行

小腰筋→第12胸椎~第1腰椎椎体から、腸腰筋膜にかけて走行

それぞれの筋肉は、体幹から大腿骨にかけて身体の前面の深層を走行しています。

腸腰筋の作用としては、

・身体に対してももをあげる作用

・腰椎を前弯、骨盤を前傾姿勢に保持する作用

を主に行うと言われています。

速歩きになると、活動が高まることが報告されており、優秀な短距離選手は特に発達する筋肉と言われています。

 

ウォーキングの駆動源だけでなく固定源としても機能する腸腰筋

効率的で心地よいウォーキングとして、股関節が駆動源となるためには、背骨がS字カーブを描いた固定源(土台)である必要があります。

S字カーブであればバネの作用で、歩いて地面と接触するたびに身体に返ってくる体重分の衝撃を逃がしたり、反発作用で次の1歩に生かすことができます。

腸腰筋の作用の一つである腰椎の前弯は、ヒトが本来もつS字カーブの一部であり、衝撃吸収・反発機能を形成する手助けになります。

 

また、腰椎と骨盤は仙骨を介してつながっており、基本的に「腰椎前弯と骨盤前傾」、「腰椎後弯と骨盤後傾」はセットとして生じます。

そして、腸腰筋とその「腰椎と骨盤」の関係は以下のようになっています。

①腸腰筋が伸びきっている→腰椎は後弯、骨盤は後傾

②腸腰筋が短くなっている→腰椎は前弯、骨盤は前傾

腸腰筋の筋力低下により適切な張りを失うと、①のように腸腰筋が伸びきり、「腰椎は後弯、骨盤は後傾」になります。

つまり、ウォーキングのたびに体重分の衝撃が身体に返ってくることになりますので、身体の痛みや怪我につながりかねません。

ウォーキングとランニング

 

また、「腰椎は前弯、骨盤は前傾」となる、一見よさそうな腸腰筋が短くなっている②ですが、常に腰椎の関節どうしの圧縮が強くなります。

結果、①と同様に身体の痛みや怪我を引き起こす可能性があります。

そして、②のように腸腰筋が短くなっていると、次で述べるような心地よいウォーキングに必要な機能が失われてしまいます。

 

腸腰筋が伸ばされ、縮もうとする慣性で足が自然と出る

股関節は伸ばされた腸腰筋が縮む作用で寛骨臼の中を大腿骨頭が転がり・滑り、ももが前に出る

ここで、交互に足を出して移動するウォーキングは、

・地面に接している側の足から上の身体は土台

・その土台を使って、股関節から反対の足は前へ出ていく

という一面があるということを振り返ってみます。

この、足が前にでる直前、つまり足先が地面について後ろに残っている時、身体に対してももを上げる作用のある腸腰筋は、一定の張力を維持しながら引き伸ばされた状態になっています。

その伸ばされたところから一気に腸腰筋が縮まることで、

腸腰筋が縮む

大腿骨(凸)が寛骨臼(凹)を転がり・滑る

骨盤を含む身体を土台に、ももが前にでる

ももの先の膝が慣性で伸び、踵から地面につく

という動きが起こります。

つまり、背骨が柔軟なS字カーブである上に、腸腰筋に一定の柔軟性と張りを持たせておけば、自然と心地よいウォーキングができるということになります。

  

腸腰筋を効かすためのコンディショニング

腸腰筋を効かす方法

ここからは心地よいウォーキングのポイントである腸腰筋のコンディショニング方法について説明します。

腸腰筋を含めた股関節の前面にある筋肉の状態をチェック

まずはご自身の腸腰筋を含めた股関節の前面にある筋肉の状態をチェックしましょう。

トーマステストという整形外科で用いられる方法を使用します。

①平らな床に仰向けで寝る

②膝を曲げた片方の足を両手でももから抱え、膝を胸に近づける

③その時、反対の足は脱力しておく

②を行った時、③の反対の足が床から浮き上がる方は、腸腰筋をはじめ股関節の前面の筋肉の伸び幅が短くなっています。

 

前述したように腸腰筋が短くなっていると「腰椎は前弯、骨盤は前傾」となり、常に腰椎の関節どうしの圧縮が強くなり、身体の痛みや怪我を引き起こす可能性があります。

また、引き伸ばされた腸腰筋が縮み込む作用で、後ろに残った足が一気に前に出ていくという、心地よいウォーキングに必要な機能が失われた状態と言えます。

そうした方はぜひ、次にご紹介するストレッチやエクササイズを行ってみましょう。

 

腸腰筋のストレッチ

ここからは、単純に短くなった腸腰筋を伸ばす方法から、バランスをとりながら伸ばす方法、競技スポーツへ応用する方法まで、初級から上級に分けてご紹介します。

初級~寝たままストレッチ~

前述のトーマステストで、抱え込んだ足の反対側が浮き上がる方は、反対側の足を逆に下すことで腸腰筋のストレッチになります。

①平らな床に仰向けで寝る

②膝を曲げた片方の足を両手でももから抱え、膝を胸に近づける

③その時、浮いた反対の足を床の方に下げる

お腹からももの付け根(大腿骨の小転子)あたりが伸びた感じがすると思います。

痛みがでない心地よい範囲で止めて、10~20秒程度伸ばすとよいでしょう。

そこに深呼吸を交えるとより効果的です。

 

中級①~片膝立ちでストレッチ

片膝立ちの姿勢で行います。

ストレッチに「バランスをとる」という要素が含まれますので、ウォーキングなどに向けたより実用的なストレッチになります。

①片膝立ちになる

②おへそを出して背筋を伸ばす

③姿勢を保ったまま前足に体重をのせていく

上手く行えると、お腹からももの付け根のあたりが伸びる感じがすると思います。

痛みのない心地よい範囲で止めて、10~20秒程度伸ばしましょう。

深呼吸を交えるとより効果的です。

 

中級②~立位でストレッチ

今度は立った姿勢で行います。

今度もストレッチに「バランスをとる」という要素が含まれますので、ウォーキングなどに向けたより実用的なストレッチになります。

①椅子のそばに立ちます(椅子はやや側後方に配置)

②片方の膝から先の足を椅子の上に置きます

③おへそを出して背筋を伸ばす

④姿勢を保ったまま、膝を曲げながら前足に体重をのせていく

こちらも上手く行くと、お腹からももの付け根のあたりが伸びると思います。

痛みのない心地よい範囲で止めて、10~20秒程度伸ばしましょう。

深呼吸を交えるとより効果的です。

 

上級~腕立てふせの姿勢

上級は、腕立てふせの姿勢で行います。

バランスの要素も入りますが、ストレッチの要素がより強くなります。

①背筋は伸ばさない楽な腕立てふせの姿勢をとる

②片足を同側の手の外側に持ってくる

③同側の手を②の足の間をくぐらせて足と手が組んだような状態にする

④おへそを出して背筋を伸ばす

こちらも上手く行くと、お腹からももの付け根のあたりが伸びると思います。

痛みのない心地よい範囲で止めて、10~20秒程度伸ばしましょう。

深呼吸を交えるとより効果的です。

伸びているももの付け根を上下にリズミカルに動かすのも良いでしょう。

 

腸腰筋を働かせるエクササイズ

ストレッチだけでなく、腸腰筋を働かせるエクササイズも行うとより効果的です。

立った状態で、膝は伸ばしたまま床に手を伸ばし、床との距離をエクササイズの前後で測定しておくと、より効果を実感しやすいです。

体育座りの姿勢

 

①体育座りの姿勢になる

②おへそを出して背筋を伸ばす

③足の裏に手を入れ、②の姿勢を保ったまま両足を浮かす

ストレッチ同様、お腹からももの付け根のあたりに力が入る感覚があると思います。

数秒浮かすことを10回程度繰り返すとよいでしょう。

固定源としての腸腰筋の作用が効きだすため、立って前屈したときの床までの距離が縮みます。

 

椅子に座った姿勢

①背もたれから背中を離し、両足を床につける

②おへそを出して背筋を伸ばす

③ ②の姿勢を保ったまま、身体をできるだけ前に倒す

④身体は極力動かさないまま、片足を床から少し浮かす

これもストレッチ同様、お腹からももの付け根のあたりに力が入る感覚があると思います。

左右それぞれ数秒浮かすことを10回程度繰り返すとよいでしょう。

これも、固定源としての作用が効きだすため、立って前屈したときの床までの距離が縮みます。

 

腕立てふせの姿勢

①腕立て伏せの姿勢になる

②身体をまっすぐ保持

③片足を上げる

ストレッチ同様、お腹からももの付け根のあたりに力が入る感覚があると思います。

左右それぞれ数秒浮かすことを10回程度繰り返すとよいでしょう。

これは伸ばされた状態で腸腰筋を効かす効果が期待できます。

こちらも固定源としての作用が効きだすため、立って前屈したときの床までの距離が縮みます。

 

おわりに

今回は股関節の構造とウォーキングにおける股関節の働きから、腸腰筋の役割やストレッチ、エクササイズ方法をご説明しました。

ぜひ腸腰筋のストレッチやエクササイズを行った前後の効果を実感して欲しいと思います。

腸腰筋の重要性を理解していただき、普段のウォーキングの前に腸腰筋のコンディショニングを図ることで、股関節から大きく自然と足が出ていく快適なウォーキングを身につけましょう。

今回の記事が、読者の方の健康で豊かな生活の一助になれば幸いです。

では。

今回の記事を作成するにあたり参考にさせて頂いた文献は以下です。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/24/3/24_KJ00003422228/_pdf